許靖

許靖（きょ せい）

許靖は、後漢末期から三国時代の蜀漢にかけて活躍した政治家です。字（あざな）は文休（ぶんきゅう）。豫州汝南郡平輿県（現在の河南省駐馬店市平輿県）の出身です。その名声は当時から高く、多くの人物から評価されていましたが、行動については批判的な意見もありました。

生涯

許靖は若い頃から人物鑑定の才能で知られていました。しかし、従弟の許劭（きょしょう）とは仲が悪く、才能を認められながらも不遇な時代を過ごします。太守の交代を機に孝廉に挙げられ、中央政界に進出しました。

董卓が実権を握ると、許靖は人事の責任者に抜擢され、有能な人材を登用しました。しかし、董卓の横暴が激しくなると、身の危険を感じて官を辞し、各地を転々とします。孔伷（こうちゅう）、陳禕（ちんい）といった地方官を頼った後、許貢（きょこう）や王朗（おうろう）を頼って江東に身を寄せました。

江東では孫策（そんさく）の勢力拡大により、交州（現在のベトナム北部）へ逃れ、士燮（ししょう）の庇護を受けます。その後、劉璋（りゅうしょう）に迎えられ、巴郡太守、広漢郡太守を歴任しました。劉璋の下では治中従事の王商（おうしょう）を高く評価し、その才能を劉璋に進言しています。

劉備（りゅうび）が益州を攻略すると、許靖は劉璋を見捨てて脱出しようとしましたが失敗。しかし、劉備は許靖の才能を惜しみ、法正（ほうせい）の進言もあって左将軍長史に任じました。劉備が漢中王となると、群臣の一人として推挙し、後に太傅（たいふ）にまで上り詰めました。

蜀漢成立後、劉備が皇帝に即位すると、許靖は司徒（しと）に任命され、重臣として活躍しました。70歳を超えても向学心と人への愛情を持ち続け、諸葛亮（しょかつりょう）からも深く尊敬されました。章武2年（222年）に亡くなりました。

人物

許靖は、華歆（かきん）や王朗といった魏の重臣や、陳紀（ちんき）の子である陳羣（ちんぎん）とも親交があり、手紙のやり取りを通して交流を続けました。王朗が劉禅（りゅうぜん）に降伏を勧める手紙を送ろうとした際には、既に許靖は亡くなっていました。

評価

陳寿（ちんじゅ）は、許靖の名声や篤実さを認めつつも、その行動については疑問を呈しています。

一方、楊戯（ようぎ）の『季漢輔臣賛』では、劉備、諸葛亮に次ぐ3番目に記載されており、関羽（かんう）や張飛（ちょうひ）よりも上位に位置づけられています。これは、許靖が蜀漢において非常に高い評価を受けていたことを示しています。

蔣済（しょうさい）も許靖を高く評価し、その才能を認めなかった許劭を批判しています。

三国志演義

小説『三国志演義』では、劉璋を見捨てて劉備に降伏しようとする場面や、劉備に帝位に就くよう進言する場面で名前が登場します。

許靖は、その名声とは裏腹に、毀誉褒貶（きよほうへん）の激しい人物でした。しかし、蜀漢において重用され、後世にも評価されるなど、三国時代を代表する人物の一人として記憶されています。

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