薦野増時

薦野増時：戦国を駆け抜けた知勇兼備の武将

薦野増時（こもの ますとき）は、戦国時代から江戸時代初期にかけての武将であり、その生涯は激動の時代を象徴するかのようです。当初は立花氏の家老として名を馳せ、後に黒田氏に仕え、その知略と武勇を発揮しました。彼は「立花三河守」の名を許され、後に黒田姓を賜るなど、その功績は多岐にわたります。

薦野氏の出自

増時の出自である薦野氏は、筑前国糟屋郡薦野を拠点とする国人領主でした。その祖先は、継体天皇の末裔である多治氏に遡ると言われています。『筑後将士軍談』によれば、継体天皇の子である左大臣家憲が初めて丹治の名を賜り、その末裔が各地に移り住んだとされます。増時の先祖である峯延は、筑前国薦野に住み着き、薦野を名字としたと伝えられています。

戦国時代の活躍

天文12年（1543年）、薦野宗鎮の嫡男として生まれた増時は、代々宗像氏や大友氏、そして立花氏に仕えてきました。永禄4年（1561年）には、大友軍の一員として立花鑑載と共に宗像氏の領地へ侵攻し、その戦いで許斐里城を落とす活躍を見せました。しかし、翌日の吉原里城での戦いでは反撃に遭い、撤退を余儀なくされました。

永禄10年（1567年）、宗像氏貞が立花山城へ侵攻した際には、飯盛山に陣を構え、立花鑑載や怒留湯直方と共に宗像軍を迎え撃ちました。しかし、宗像家臣との一騎打ちで敗北し、宗像軍の反撃を許すことになりました。増時は一族と共に、自身の領地で宗像軍の侵攻に抵抗しました。

永禄11年（1568年）、立花鑑載が大友氏に叛旗を翻すと、増時の父である宗鎮はこれに反対して謀殺されます。増時と米多比鎮久は、立花勢の討伐軍を撃退し、その後大友軍に合流して立花家と戦いました。

立花鑑載が討伐された後、大友宗麟の命により戸次鑑連が立花山城に入り「立花道雪」と名乗ると、増時は鎮久と共にその配下となりました。父の宗鎮と増時は、大友家への忠義と戦功を認められ、特に増時は冷静沈着で勇猛果断な人物として重用されました。

道雪の副将として、増時は天正年間の筑前における数々の戦いに参戦しました。秋月種実、原田隆種、筑紫広門、宗像氏貞らとの戦いでは、その軍略と武勇を遺憾なく発揮し、多くの戦功を挙げました。第二次生松原の戦いや太宰府観世音寺の戦い、高祖山城攻防戦など、数々の激戦で活躍し、その功績は数十通の感状として残されています。

立花氏の家宰として

立花道雪は増時の才能を深く愛し、養子として家督を譲ろうとしましたが、増時自身がこれを固辞しました。彼は、立花氏の家中が様々な出自の者による寄り合い所帯であるため、安易な家督相続は内紛を引き起こす可能性があると考えたのです。

道雪と増時は、高橋統虎を養子に迎え、増時がその補佐を務めることになりました。道雪は増時に宛てた書状の中で、情報収集の重要性について説き、安易な情報を信じることの危険性を指摘しています。

天正13年（1585年）、道雪が病死すると、統虎が立花宗茂と名を改め家督を継ぎました。増時は引き続き宗茂に仕え、島津氏や豊臣秀吉との交渉にもあたりました。また、島津側の策略で捕虜になった宗茂の弟の返還を実現させるなど、長年の忠義を評され、立花姓を名乗ることを許されました。さらに、増時の息子には宗茂の実姉が嫁ぎました。

豊臣秀吉の九州平定後、宗茂が筑後国柳河城に移封されると、増時は支城である城島城を与えられました。

関ヶ原の戦いとその後

慶長5年（1600年）、関ヶ原の戦いが勃発すると、増時は徳川家康率いる東軍の勝利を予測し、加藤清正や黒田如水との同盟を主張しましたが、宗茂は西軍に加担することを選択しました。増時は柳河城の留守を命じられましたが、西軍は敗北。立花氏は柳河城に籠城し、鍋島・黒田・加藤らの軍に包囲されました。しかし、徳川家康から安堵の御朱印を得た丹親次が帰還し、立花氏は黒田氏らと和睦して柳河城を開城しました。

立花氏が改易となると、増時は黒田如水から仕官を勧められました。増時は、旧主である道雪が眠る梅岳寺の墓守を希望し、如水は増時の息子に旧知行と同じ4千石を与え、増し自身にも隠居料が与えられました。以後、増時の系統は福岡藩家臣として黒田氏に仕え、立花氏に復帰することはありませんでした。

その死と遺産

元和9年（1623年）、薦野増時は81歳で生涯を閉じました。彼は道雪の生前に得た許しに従い、梅岳寺の道雪の墓所の隣に葬られました。福岡藩の重臣で文人として名高い立花実山は、増時の曾孫にあたるとされています。

薦野増時は、戦国時代から江戸時代初期にかけて、激動の時代を生き抜いた知勇兼備の武将でした。立花氏と黒田氏という二つの大名家を渡り歩き、その忠義と卓越した軍事手腕によって名を残しました。彼の生涯は、戦国武将の生き様を今に伝える貴重な歴史として、後世に語り継がれています。

紹運無双 立花家の将薦野 三河守 増時
薦野増時と米多比鎮久 ～その１～
薦野の歴史をつなぐ会

もう一度検索