薩埵峠の戦い (南北朝時代)

薩埵峠の戦い：南北朝時代の激突

南北朝時代、足利尊氏と足利直義の対立は、観応の擾乱として歴史に刻まれました。その中で、正平6年/観応2年（1352年1月）、駿河国由比・内房一帯で発生した薩埵峠（さったとうげ）の戦いは、両者の確執が頂点に達した象徴的な出来事でした。薩埵山（さったやま）の戦いとも呼ばれ、桜野の戦いという異名も持つこの合戦は、日本の歴史における重要な転換点となりました。

本戦までの経緯

観応の擾乱により、北朝は尊氏派と直義派に分裂。和解の試みは失敗に終わり、直義は自派の武将を率いて京都を脱出し、北陸、信濃を経て鎌倉へ逃れました。一方、尊氏は南朝に降った後、直義追討の綸旨を受け、京都を出発します。

尊氏軍は、今川範氏らと連携し、直義方の勢力を次々と撃破していきました。由比・蒲原での戦闘では、今川範氏、小笠原政長らが活躍し、尊氏軍は勝利を収めます。尊氏は掛川、手越宿を経て、12月13日には由比越で今川範氏と合流し、桜野に本陣を置きました。これは、従来の『太平記』の記述とは異なり、史料に基づいて修正されたものです。

本戦：激突と決着

『太平記』によれば、尊氏軍は仁木頼章、仁木義長、畠山国清兄弟、今川範国、今川貞世、武田信武、千葉氏胤、長井兄弟、二階堂行朝など、3000騎の精鋭から構成されていました。対する直義軍は、桃井直常、長尾景忠ら一万騎を宇都宮氏綱討伐に向かわせ、直義自身も十万の兵を率いて鎌倉を出発したと記されています。しかし、『太平記』の兵力数は誇張されている可能性が高いとされています。

桜野に布陣した尊氏軍は、小笠原政長に内房への進軍を命じます。12月27、28日、両軍は激突。石塔義房、石塔頼房父子率いる直義軍は尊氏軍と交戦しますが、緒戦は尊氏軍の勝利に終わりました。29日には直義の別働隊も敗北し、尊氏軍は優勢を確立します。

正平7年/観応3年（1352年）1月5日、尊氏は鎌倉に入城、直義は降伏しました。その後、直義は鎌倉の浄妙寺に幽閉され、2月26日に急死しました。『太平記』は、尊氏による毒殺であったと伝えています。

薩埵峠の戦いの意義

薩埵峠の戦いは、観応の擾乱における重要な局面であり、足利尊氏の権力掌握を決定づける大きな勝利となりました。この戦いの結果、足利直義は失脚し、尊氏の支配体制は盤石なものとなりました。しかし、直義の死は、尊氏と直義の対立という南北朝動乱の根源的な問題を解決したわけではなく、その後の政治状況に大きな影響を与えたと言えるでしょう。また、史料の検証を通して、従来の歴史観を見直す必要性も示唆しています。この合戦は、軍事的な側面だけでなく、政治的、社会的な様々な要素が複雑に絡み合った、南北朝時代の混沌を象徴する出来事だったと言えるでしょう。 様々な史料を精査し、より正確な歴史像を明らかにすることが、今後の課題です。

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