薬丸兼陳

薬丸兼陳（やくまる けんちん/かねのぶ）

薬丸兼陳は、江戸時代前期に活躍した薩摩藩の武士であり、剣術家として名を馳せました。薬丸壱岐守を祖父に持ち、父は薬丸兼利という家系に生まれます。後に隠居して如水と号しました。彼は、島津家中で武勇に優れた家柄として知られた薬丸氏の中でも、特に武道に秀でた人物でした。

示現流の達人

兼陳は、示現流の創始者である東郷重位の弟子の中でも特に優れた五高弟の一人とされています。ただし、彼自身が新たな流派を創設したという記録はなく、子孫の薬丸兼武によって薬丸自顕流の流祖とされています。

東郷重位との出会い

兼陳が示現流に入門するきっかけは、祖父の薬丸壱岐守が東郷重位の初陣の際に親代わりを務めた縁と、互いの屋敷が近かったことにありました。14歳で東郷重位の門下に入り、同年代の東郷重位の子息である重方と切磋琢磨しながら、急速に剣術の腕を上げました。16歳で二段目を授かり、20歳頃には皆伝に至り、弟子を取ることも許されるほどの実力者になりました。

小太刀の名手

兼陳は、特に小太刀の技に秀でていました。当時、まだ戦国時代の気風が残っていたため、兼陳も刀傷沙汰や試合を挑まれることがありましたが、それら全てに打ち勝ち、その剣名を藩内に轟かせました。

示現流の「意地」

ある夜、兼陳は島津綱久に示現流の「意地」について問われました。その際、兼陳は茶釜を例えに使い、示現流の「意地」を説明しました。茶釜に水を入れ、炭火で煮ると、水は徐々に熱湯となり、蒸発し、やがて茶釜自体が焼かれ、その色は紫や紅に変わる。この状態になった茶釜に触れるものは焼き尽くされる。これこそが示現流の「意地」であると説きました。

稽古の逸話

兼陳は稽古の際、その気合の凄まじさから肥前焼きの茶碗を割ってしまうほどだったため、稽古中は茶碗を伏せていたという逸話が残っています。その剣名は藩内で高く、東郷重位の五高弟に数えられるほどでした。

晩年

兼陳は83歳まで長生きし、東郷重位の教えを直接受けた弟子として、流派内で重きを成しました。彼の墓は、曹洞宗松原山南林寺にあります。

年譜

寛永3年2月：東郷重位より示現流聞書誓喩奥書を授与される。この時の通称は大炊兵衛。
承応2年（1653年）2月：初代長崎御使人に就任。
万治2年：「万治2年鹿府万治高帳」に「薬丸刑部左衛門　219石」と記録される。
元禄5年2月17日：妻の弟、蒲地八左衛門貞隆が82歳で死去。

参考文献

鹿児島県史料集（34） 示現流関係資料、鹿児島県史料刊行会、平成6年
鹿児島市史III
「三国名勝図会」
村山輝志「示現流兵法」
* 「鹿児島県史料　旧記雑録追録1」

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