藤原巨勢麻呂

藤原巨勢麻呂：光明皇后仕えから仲麻呂の乱へ至る生涯

藤原巨勢麻呂は、奈良時代を代表する貴族の一人です。左大臣を務めた藤原武智麻呂を父に持ち、華麗なる藤原氏の血筋を引く彼は、740年の従五位下への叙爵を皮切りに、輝かしいキャリアを歩み始めます。

743年には、光明皇后の中宮亮に任命され、皇后に仕えることとなります。これは、巨勢麻呂の優れた能力と、藤原氏としての高い政治的地位を示す重要な出来事でした。その後も順調に昇進を重ね、745年には従五位上、748年には正五位下、750年には正五位上、そして754年には従四位下へと昇りつめます。聖武天皇から孝謙天皇へと続く時代において、巨勢麻呂は着実に官位を高めていったのです。

転機は、758年の淳仁天皇の即位、そして藤原仲麻呂（恵美押勝）による専制政治の開始でした。巨勢麻呂は、仲麻呂政権の中枢メンバーとして重用され、その後の出世はめざましいものとなります。758年には従四位上、翌759年には正四位下と播磨守に任じられ、さらに760年には従三位に昇進します。そして762年正月、仲麻呂の子、真先とともに参議に任命され、政治の中枢に深く入り込みました。同年11月には、仲麻呂が計画した新羅征伐にあたり、香椎廟奉幣使として重要な役割を担うこととなります。

しかし、巨勢麻呂の華やかな経歴は長くは続きませんでした。764年、藤原仲麻呂の乱が起こります。巨勢麻呂は仲麻呂側に加わったため、官軍によって斬殺されました。ただし、763年に既に亡くなっていたとする説もあります。

巨勢麻呂の官歴を詳細に見ていくと、その出世のスピードと、政治の中枢への接近が分かります。天平12年（740年）の従五位下叙爵から始まり、中宮亮を経て、着実に官位を上げていきます。特に仲麻呂政権下での昇進は目覚ましく、短期間で従三位にまで上り詰めています。参議への任命は、その政治的地位を決定づけるものでした。

巨勢麻呂の家族についても見てみましょう。彼は藤原武智麻呂と阿祢娘の子として生まれました。そして、妻には山背王の娘を迎えています。彼の子息には、藤原黒麻呂、藤原長川、藤原真作、藤原今河、藤原河主、藤原弓主、藤原貞嗣、藤原伊勢人など、多くの者がおり、その子孫もまた朝廷において重要な役割を果たす者たちが多く輩出しています。

巨勢麻呂の生涯は、光明皇后への仕えから、藤原仲麻呂への忠誠、そして乱への参加と、激しい時代の流れの中で生きた一貴族の物語です。彼の死は、仲麻呂の乱という大きな事件に巻き込まれた悲劇的な結末であり、奈良時代の権力闘争の一端を垣間見せる出来事でした。史料からは、彼の能力と政治的判断、そして時代の波に翻弄された人生が浮かび上がってきます。彼の生涯を詳しく探ることによって、奈良時代の政治状況や、貴族社会の実態をより深く理解することができるでしょう。

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