藤原敏行

藤原敏行：歌人、書家、そして平安時代の貴族

藤原敏行は、平安時代前期を代表する貴族、歌人、そして書家です。36歌仙の一人に選定されており、その歌の才能は広く知られています。また、書家としても高い評価を受け、現存する書跡は少ないながらも、その筆致は後世に大きな影響を与えました。

華麗なる経歴：宮廷での活躍

敏行は、名門藤原氏南家巨勢麻呂流の出身です。幼少期から優れた才能を示し、貞観8年（866年）には少内記に任ぜられます。その後、大内記、蔵人などを経て、順調に官位を昇進。従五位下に叙爵されると、中務少輔に任ぜられるなど、宮廷において重要な役割を担いました。

清和朝、陽成朝と時代が移り変わっても、敏行の活躍は続きます。大宰少弐、図書頭、因幡守、右兵衛権佐など、様々な役職を歴任。元慶6年（882年）には従五位上に昇叙され、着実にキャリアを積んでいきました。宇多朝に入ると、仁和4年（888年）には五位[[蔵人]]に任ぜられますが、病気のため1年ほどで辞任。その後も、右近衛権中将、蔵人頭といった要職を歴任し、朝廷の中枢で活躍しました。

特に、敦仁親王（後の醍醐天皇）への仕えは特筆に値します。春宮大進/亮として仕え、敦仁親王の即位に貢献した功績により、従四位上に叙爵され、右兵衛督に任ぜられました。

稀代の書家：神護寺鐘銘

敏行の書跡は、現存するものが少ないながらも、高い評価を受けています。小野道風が空海と共に古今最高の能書家として名を馳せたように、敏行の書もまた、その高い技量から多くの称賛を集めました。明治の三筆の一人である中林梧竹が、常に空海と敏行の書跡を携帯していたという逸話は、その書に対する評価の高さを物語っています。

その中でも最も有名なのが、国宝にも指定されている神護寺鐘銘です。禅林寺の真紹の発願により鋳造されたこの鐘銘は、謹厳な楷書で書かれており、小野篁や紀夏井の流れを汲む勁健な書法が特徴です。序文は橘広相、銘は菅原是善、書は敏行と、当時の三名家がそれぞれ担当したことから「三絶の鐘」と呼ばれ、平安時代を代表する金文として知られています。興福寺南円堂銅燈台銘（伝橘逸勢）、道澄寺鐘銘（伝小野道風）と並び称されるほど、その価値は高いと評価されています。

数々の伝説：歌人としての逸話

敏行は、多くの伝説にも彩られています。例えば、『宇治拾遺物語』には、敏行が法華経を200部以上も書写したものの、魚を食べるなど不浄の身のまま書写したため、地獄に落ちて苦しんだという話が伝えられています。また、亡くなった直後に生き返り、自らのお経を書いて再び絶命したという伝説も存在します。これらの逸話は、敏行の人物像をより鮮やかに浮かび上がらせています。

代表歌：後世に繋がる歌の数々

敏行は優れた歌人としても知られ、『古今和歌集』を始めとする勅撰和歌集に28首もの歌が収録されています。特に有名な歌として、『小倉百人一首』にも選ばれた「すみの江の岸による浪よるさへや 夢のかよひぢ 人目よくらむ」は、広く知られています。彼の歌には、自然への鋭い感性と、繊細な心の動きが表現されており、後世の和歌にも大きな影響を与えました。家集『敏行集』も残されています。

系譜と最期

敏行の父は藤原富士麻呂、母は紀名虎の娘です。複数の妻との間に、藤原有快、藤原伊辛、藤原伊衡、藤原伊望、藤原季方など多くの子供をもうけました。昌泰4年（901年）あるいは延喜7年（907年）に没したと伝えられています。

まとめ：多才な貴族の生涯

藤原敏行は、歌人、書家、そして貴族として、平安時代前期に大きく貢献した人物です。優れた歌の才能、そして高い書技、そして華麗な宮廷でのキャリアは、後世に大きな影響を与え続け、その名はいまだに人々の記憶に鮮やかに刻まれています。

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