藤原貞敏

藤原貞敏（ふじわら の さだとし）は、平安時代初期から前期にかけて活躍した貴族です。藤原京家の一員であり、刑部卿・藤原継彦の六男として生まれました。最終的な官位は従五位上・掃部頭です。

貞敏は、承和2年（835年）に美作掾兼遣唐准判官に任ぜられ、二度の渡航失敗を経て、承和5年（838年）に念願の入唐を果たし、長安に到着しました。『日本三代実録』によると、彼は琵琶の名手である劉二郎に師事するため、砂金200両を贈ったとされています。劉二郎は、貞敏の熱意に応え、すぐに3調の琵琶を授けました。貞敏はわずか数ヶ月で妙曲を習得し、その才能に感銘を受けた劉二郎はさらに数十曲の楽譜を贈呈しました。そして、貞敏の音楽の才能が家伝であることを知ると、自らの娘（劉娘）を娶らせました。劉娘も箏の名手であり、貞敏は彼女からさらに新しい曲を学んだとされています。帰国にあたっては、劉二郎は紫檀と紫藤の琵琶をそれぞれ1面ずつ贈りました。

しかし、『琵琶譜』には、貞敏が揚州の開元寺で廉承武という人物から教えを受けたと記されています。承和の遣唐使は唐の政情不安により、代表者34名のみが長安に入り、残りは揚州に留まっていたため、『日本三代実録』の記事には誤りがある可能性が指摘されています。貞敏は、承和6年（839年）8月に、琵琶の名器「玄象」「青山」や「賀殿」などの琵琶曲の楽譜を携えて帰国しました。また、一説には唐で結婚した妻を連れて帰り、妻が日本に箏を伝えたとも言われています。

帰国後の貞敏は、その功績により正六位上に叙せられ、仁明天皇の前で琵琶を演奏しました。その後、三河介、主殿助、雅楽助などを歴任し、承和9年（842年）には従五位下に叙爵しました。承和14年（847年）には雅楽頭に昇進し、仁明朝末から文徳朝にかけてその職を務めました。また、斉衡3年（856年）には東大寺正倉院の曝涼使に任じられ、正倉院に収められた古い楽器の調査も行いました。その後、従五位上に昇進し、文徳朝末には掃部頭に転じ、清和朝でも引き続きその職を務めました。

貞観9年（867年）10月4日に61歳で亡くなりました。若い頃から音楽を愛好し、特に琵琶の演奏に優れていました。琵琶の才能をもって三代の天皇に仕え、その名声は非常に高かったとされています。彼は多くの琵琶の秘曲を日本にもたらし、琵琶の祖と称されています。


官歴
時期不詳：従六位下
承和2年（835年）日付不詳：美作掾。10月19日：遣唐准判官
承和6年（839年）9月28日：正六位上
承和7年（840年）日付不詳：三河介
承和8年（842年）日付不詳：主殿助。日付不詳：雅楽助
承和9年（842年）正月7日：従五位下
承和14年（847年）2月11日：雅楽頭
仁寿4年（854年）5月22日：次侍従
斉衡3年（856年）正月12日：兼備前介
斉衡4年（857年）正月7日：従五位上
天安2年（858年）日付不詳：解官（母服喪）。3月8日：掃部頭
貞観6年（864年）正月16日：兼備中介
貞観9年（867年）10月4日：卒去（従五位上行掃部頭）

系譜
父：藤原継彦
母：不詳
生母不詳の子女
男子：藤原良春
男子：藤原晨省


このように藤原貞敏は、その卓越した琵琶の才能と、日本への琵琶文化の導入という偉大な功績によって、歴史に名を刻んだ人物です。

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