藤田哲也 (気象学者)

藤田哲也：竜巻とダウンバースト研究の世界的権威

藤田哲也（ふじたてつや、Tetsuya Theodore "Ted" Fujita、1920年 10月23日 - 1998年 11月19日）は、日本・アメリカ合衆国の著名な気象学者です。福岡県北九州市小倉南区出身で、ダウンバースト（下降噴流）とトルネード（竜巻）の研究における世界的権威として広く知られています。その卓越した業績から「ミスター・トルネード」または「竜巻博士」とも称され、また、観測データから得られた複雑な数式を分かりやすい立体図などで表現する手腕から「気象界のディズニー」とも呼ばれました。

トルネード研究における先駆的業績

藤田が渡米した当時、アメリカではトルネードの発生回数は記録されていたものの、その規模や強さについては体系的な記録がありませんでした。そこで藤田は、ミズーリ州カンザスシティの気象予報センター長であったアラン・ピアソンと共に、トルネードによる建物の破壊程度から最大風速を推定する方法を考案しました。これが「Fujita-Pearson Tornado Scale」（藤田スケール、F-Scale）として提唱され、1973年からはアメリカ国立気象局で採用され、現在では国際的な基準として広く用いられています。

この功績から、もし気象学にノーベル賞があれば、藤田が受賞することは間違いないだろうと評されました。藤田は多くのトルネードを分析した結果、トルネード発生には親雲の存在が不可欠であると考えました。そして、親雲から発生した渦が地形や気象条件と関連して地上に到達した時に、トルネードが発生するというメカニズムを推論し、実験室でその再現に成功しました。

ダウンバーストの発見と解明

1947年、明治専門学校（現在の九州工業大学）助教授時代に、藤田は脊振山頂測候所での観測中に、雷雲の下部に下降気流が存在することを発見しました。この発見は、後にダウンバーストとして知られるようになる現象の初期研究となりました。

さらに、1975年のジョン・F・ケネディ国際空港でのイースタン航空66便着陸失敗事故の再調査では、藤田は事故原因がパイロットの操縦ミスではなく、空港付近で発生した短時間の強い下降気流（ダウンバースト）によるものであることを突き止めました。この解明により、ダウンバーストの危険性が認識され、ドップラー・レーダーによる事前予測が可能であることが示されました。これにより、世界各地の空港にドップラー・レーダーが配備されるようになりました。

その他業績

原爆被害調査: 広島と長崎への原爆投下後、被害状況の調査に派遣され、爆心地の爆発高度を推定しました。
親子竜巻の発見: 大竜巻の中に子竜巻が存在する「親子竜巻」の二重構造を発見し、論文で発表しました。

受賞と栄誉

勲二等瑞宝章受章
日本気象学会藤原賞受賞
フランス国立航空宇宙アカデミー賞・金メダル授与
シカゴ大学名誉教授

略歴

1920年：福岡県企救郡曽根村（現在の北九州市小倉南区）に生まれる。
1939年：小倉中学校（現在の福岡県立小倉高等学校）卒業。
1943年：明治専門学校（現在の九州工業大学）工学部機械科卒業、同大学助手、物理学助教授に就任。
1945年：広島、長崎の原爆被害調査に派遣される。
1947年：脊振山頂で下降気流の観測を実施。
1953年：東京大学で博士号を取得。シカゴ大学へ招聘され渡米、気象学客員研究員となる。
1965年：シカゴ大学教授に就任。
1968年：アメリカ市民権を取得。
1971年：竜巻の規模を示す藤田スケール（F-Scale）を考案。
1975年：ジョン・F・ケネディ国際空港での航空機事故調査でダウンバースト研究を本格化。
1976年：ダウンバーストの存在を実証。
1979年：ドップラー・レーダーによるダウンバースト予測を立証。
1991年：シカゴ大学名誉教授となる。
1998年：糖尿病により死去。享年78歳。北九州市に墓がある。

著書

『たつまき〈上〉』（共立出版、1973年）
『ある気象学者の一生』（自費出版）

書籍

Mr.トルネード藤田哲也世界の空を救った男, 佐々木健一著, 文藝春秋刊, 2017/6/19
嵐の正体にせまった科学者たち　第27章テツヤ・テオドール・フジタ, 　J. D. Cox著, 堤之智訳, 丸善出版, 2013

参考資料

「竜巻研究の父、藤田哲也」（『ニッポン天才伝─知られざる発明・発見の父たち』上山明博，朝日選書，2007年）
「ミスター・トルネードの残した名言─藤田哲也」（『ニッポン発明物語』上山明博，Kindle版，2014年）
特集世界が尊敬する日本人藤田哲也（気象学者）ニューズウィーク日本版
北九州大辞典“世界に誇る気象学者”藤田哲也
竜巻研究は日本人がリードしてきた
米巨大竜巻災害で世界のメディアが伝えた“ある日本人”の名：日経ビジネスオンライン
“追跡人”は、なぜ命をかけてまで「竜巻」を追うのか：日経ビジネスオンライン
「藤田スケール」尺度をつくるってなんだ？ - ダイヤモンド・オンライン
気象庁藤田（F）スケールとは
『毎日新聞』 2013年05月11日「竜巻「Fスケール」藤田博士の偉業紹介へ教え子が企画」
『毎日新聞』 2013年05月11日「竜巻:Fスケールの偉業紹介世界的権威、北九州出身・藤田哲也博士出前授業、教え子が企画」
『毎日新聞』 2012年05月07日「ことば:藤田（F）スケール」
『博多に強くなろう北九州に強くなろう 100の物語』下巻、2018/11/22、西日本シティ銀行、P99、「世界の竜巻博士藤田哲也」

外部リンク

* たつまき博士研究室 at the Wayback Machine

藤田哲也は、その生涯を通じて気象学の発展に大きく貢献しました。彼の研究は、今日でも気象災害から人々を守るための重要な基礎となっています。

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