表参道バス

表参道バス：歴史を彩る都心の足跡

表参道バスは、かつて東京の表参道エリアで運行されていた、地域住民に愛された路線バスです。その歴史は、明治神宮の鎮座祭が行われた翌年、1920年（大正9年）に遡ります。このバスの運行開始は、明治神宮への参拝客の利便性向上を目的としていました。

運行ルートと利用状況

路線の起点は青山北町（現在の港区北青山3丁目）の「善光寺前」停留所。終点は明治神宮前、現在の原宿駅脇に位置する「神宮橋」（渋谷区神宮前1/6丁目）でした。このルートは、明治神宮への参拝客だけでなく、当時東京市電が走っていた青山通りと山手線の原宿駅を繋ぐ、日常的な交通手段としても広く利用されました。特に近隣住民からは「青バス」の愛称で親しまれ、地域に根ざしたバスとして親しまれました。

戦時下の運行

昭和10年代に入ると、日本は戦時体制へと移行し、燃料統制の影響を受け、表参道バスも木炭バスでの運行を余儀なくされました。しかし、大東亜戦争が激化する前までは、バスの運転手がバス後部の木炭釜で焼き芋を焼き、それを乗客の子供たちに配るなど、のどかな光景も見られたと伝えられています。厳しい状況下でも、人々の心を和ませる出来事があったことは、当時のバスが地域社会にとってどのような存在であったかを物語っています。

現代への継承

表参道バスそのものは姿を消しましたが、その路線の一部は、現代にも継承されています。渋谷区のコミュニティバス「ハチ公バス」が2008年（平成20年）2月に運行を開始した「神宮の杜ルート」の「明治神宮」停留所から「表参道駅」停留所間は、かつての表参道バスの運行ルートと重なっています。これは、表参道バスが地域の足として担ってきた役割が、形を変えながらも現代に受け継がれていることを示しています。

表参道バスは、単なる交通手段としてだけでなく、地域の人々の生活や歴史、そして記憶の一部として、その名を刻んでいます。その歴史を振り返ることで、私たちは過去の都心における公共交通のあり方、そして地域社会におけるバスの役割を改めて認識することができるでしょう。

まとめ

表参道バスは、明治神宮への参拝客を運ぶという役割から、地域住民の日常の足として、さらには戦時下のほのぼのとしたエピソードまで、様々な側面を持つバスでした。その歴史は、東京の都市交通の変遷、そして地域社会におけるバスの役割を考える上で、重要な手がかりとなります。

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