裏窓 MAKI V

浅川マキの世界を彩る傑作『裏窓 MAKI V』

1973年 11月5日に世に送り出されたアルバム『裏窓 MAKI V』は、シンガー・ソングライター浅川マキの通算5作目にあたるオリジナル作品です。通称として『裏窓』の名で親しまれています。

本作の大きな特徴は、スタジオでの録音と、当時のライブで収録された音源が織り交ぜられている点にあります。ライブ録音は、神田共立講堂と明大前キッドアイラックホールのステージで敢行されました。これにより、スタジオ作品としての完成度と、ライブならではの熱気や空気感が融合した独特の世界観が作り上げられています。

収録された楽曲たち

アルバムは合計10曲で構成されており、A面、B面に分かれています。

Side A

1. こんな風に過ぎて行くのなら
浅川マキ自身が作詞・作曲を手がけたナンバー。1972年 7月にはシングルとしても発表されていますが、本作に収められたのはアルバム用にアレンジされたバージョンです。
2. 裏窓
寺山修司が作詞、浅川マキが作曲を担当したタイトルチューン。1973年 4月13日、明大前キッドアイラックホールでのライブパフォーマンスが収録されています。アルバム発売に先立つ1973年 7月5日には、シングルカットもされています。
3. あの男（ひと）が死んだら WHEN THAT MAN IS DEAD AND GONE
Irving Berlinが手がけた楽曲に、浅川マキが日本語詞をつけた作品です。
4. セント・ジェームス病院 St. JAMES INFIRMARY
Joe Primroseによる楽曲に浅川マキが日本語詞をつけています。この曲は1973年 6月15日の神田共立講堂でのライブ録音です。ジャズトランペット界の巨匠、南里文雄が参加しており、彼のキャリアにおける最後のレコーディングの一つとしても知られています。
5. ロンサム・ロード LONESOME ROAD
Gene Austin作詞、Nathaniel Shilkret作曲のナンバーに、浅川マキが日本語詞をつけたものです。こちらも1973年 6月15日の神田共立講堂でのライブ収録音源が用いられています。

Side B

1. 引越し
作詞・作曲は浅川マキ。1972年 7月リリースのシングル「こんな風に過ぎて行くのなら」のB面として収録されていた楽曲です。
2. トラブル・イン・マインド TROUBLE IN MIND
Richard M. Jones作詞・作曲のブルーススタンダードに、浅川マキが日本語詞をつけています。
3. 翔ばないカラス
作詞は真崎守、作曲は浅川マキ。この曲も1973年 7月5日にシングルとしてリリースされました。しかし、シングルバージョンと本アルバムに収録されている音源は別テイクとなっています。
4. 町の酒場で
浅川マキ自身が作詞・作曲を手がけた楽曲です。
5. ケンタウロスの子守唄
作詞：筒井康隆、作曲：山下洋輔による楽曲。オリジナルは1970年のオムニバスアルバムに収録された、麻里圭子が歌唱したバージョンであり、本作では浅川マキによるカバーとして収められています。

演奏を支えた音楽家たち

浅川マキのボーカルとパーカッションを中心に、本作には多彩なミュージシャンが参加しています。アコースティックギターの萩原信義、エレキベースの富倉安生、高中のりお（高中正義）、ピアノやオルガンの白井幹夫、渋谷森久、山下洋輔、ドラムスの小松崎政雄、大塚勝久、つのだ・ひろ、パーカッションの斉藤伸雄、クラリネットの市原宏祐、そして先に触れたトランペットの南里文雄、トロンボーンの片岡輝彦、テナーサックスの斎藤清といった面々が、浅川マキの音楽世界を支えました。

作品を創り上げたスタッフ

本作の制作には、プロデューサーとして寺本幸司と関根ゆき子、ディレクターとして渋谷森久が参加。ミキサーは吉野金次と菅原達雄（特にトラック4、5を担当）が担当しています。写真撮影は田村仁、デザインは周東圀夫、レコーディングマネージャーは田村洋子が務めました。制作はMUSIC FACTORY FAMILY CORP.が行っています。

後世への継承：CD化と再発

この『裏窓 MAKI V』は、後に何度かCDとして再リリースされています。初めてCD化されたのは1990年 12月19日、10枚組のBOXセット『浅川マキの世界 CD10枚組BOX 自選作品集』の中の一枚としてでした。このBOXセットは2010年にも復刻限定生産盤として再リリースされています。さらに2011年1月19日には、リマスタリングされ、オリジナルLP盤の仕様を再現した紙ジャケット形式で再び発売され、現在でもその音源を聴くことができます。また、このアルバムに収録された音源の一部は、『DARKNESS I、III、IV』や『Long Good-bye』といった浅川マキの他のコンピレーション作品でも聴くことが可能です。

スタジオ録音とライブ録音が共存する本作は、浅川マキという稀代の表現者の多面的な魅力を捉えた、ファンにとって欠かせない一枚と言えるでしょう。

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