西村直

西村直：ニッカトー創業者、その生涯と功績

西村直（にしむら なおし、1888年11月10日 - 1982年2月25日）は、日本の実業家であり、化学磁器・工業用セラミックスメーカーであるニッカトー（旧 西村工業）の創業者として知られています。

生い立ちと学歴

1888年、実業家の西村勝三の五男として東京に生まれました。慶應義塾普通部を卒業後、東京高等工業学校（現 東京工業大学）応用化学科に進学。同校校長の手島精一は父・勝三と旧知の仲であり、西村直の進学を見届けるように亡くなりました。東京高等工業学校では、染料化学に強い関心を抱き研究に没頭しました。1909年に卒業。

起業への道

当時、父が経営する品川白煉瓦は業績不振、日本皮革も合併後の主導権争いの渦中にありました。そのため、西村直は家業を継ぐのではなく、自らの関心がある染料化学を生かした事業を志し、東京瓦斯に入社。都市ガスの製造過程で副産物として得られるコールタールが染料の基礎原料となることに着目したのです。しかし、当時の日本では染料分野の研究設備が十分ではなく、研究者としての欲求を満たすことはできませんでした。そのため、ドイツ留学を決意します。

化学磁器との出会い

西村家と縁故のあった梅田音五郎と野口弥太雄は、品川白煉瓦大阪工場、日本皮革大阪支店にて国産化学磁器の研究に打ち込んでいました。西村家の関連事業として化学磁器事業が承認され、1913年6月、大阪市浪速区芦原に匿名組合西村化学陶業試験場が設立されます。西村直は、これと並行してドイツ留学の準備を進め、ドレスデン高等工業学校に進学し、染料の研究に打ち込みました。本場ドイツの優れた研究環境に感銘を受ける一方、日本での研究環境との差に絶望感すら覚えたといいます。やがて、関心の対象は鉄合金へと移っていきました。

第一次世界大戦と事業の転換

留学の翌年、第一次世界大戦が勃発し、急遽帰国。母校の加藤与五郎教授の勧めにより鉄合金の事業を始め、埼玉県川越に工場を開設。大量の電力を必要としたため、同年中に福島県の猪苗代湖畔に新工場を建設しましたが、1921年に撤退。その後、共同経営者であった佐野隆一は独力で事業を続け、後に東北東ソー化学となる鉄興社を興します。1921年5月、西村直は事業を整理し、西村化学陶業試験場の化学磁器事業と木材防腐油の製油事業を行う西村工業株式会社を設立しました。

戦後の苦難と再起

西村化学陶業試験場時代からの大阪工場に加え、1938年には大阪府堺市に堺工場を新設。しかし、第二次世界大戦の戦火により、1945年に両工場とも焼失してしまいます。大阪工場は再開を断念。堺工場の再開にあたり、日用品の製造に転換するか、化学磁器専門メーカーとして再出発するかの選択を迫られました。西村直は、化学磁器専門メーカーとしての自負と将来的な企業イメージを重視し、化学磁器工場として再出発することを決意。1946年3月より堺工場の生産を再開しました。

1946年12月、戦時中の在郷軍人分会長としての責を問われ、占領軍の公職追放処分を受けましたが、1950年1月には解除され社長職に復帰。この間、彼の意を受けた役員により、社名を西村工業から日本化学陶業に変更しました。

後進への道と晩年

1960年より、堺市内に開設される東山工場の建設準備に入ります。企業が成長したことを感じた西村直は、後継者への引継ぎを考え始め、1964年11月、藍綬褒章を受章したのを機に会長職に退き、専務であった塚田篤に社長の座を譲りました。1968年11月には傘寿を機に会長職も退き、相談役に就任。

1982年2月25日、93歳で逝去。

受章

1964年に藍綬褒章、1967年には勲四等旭日小綬章を受章。

親族

父・勝三は日本皮革や品川白煉瓦を興した実業家。叔父（勝三の兄）の茂樹は道徳教育を推進した思想家で、修身学社（現 日本弘道会）、明六社を創設し、貴族院議員を務めました。

西村直は、その生涯を通じて日本のセラミックス産業の発展に大きく貢献した人物として、その名が刻まれています。

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