西沙諸島の戦い

西沙諸島の戦い（せいさしょとうのたたかい、中国語: 西沙海战、ベトナム語: Hải chiến Hoàng Sa）は、1974年 1月19日から20日にかけて、南シナ海に位置する西沙諸島（パラセル諸島）で、中華人民共和国（中国）とベトナム共和国（南ベトナム）の間で発生した武力紛争です。

背景

南シナ海に浮かぶ西沙諸島は、第一次インドシナ戦争後から、中国と南ベトナムが互いに領有権を主張し、領土問題が深刻化していました。当時、中国は西沙諸島の東部を、南ベトナムは珊瑚島などの西部（永楽群島）をそれぞれ実効支配していました。1971年には、中国軍が西沙諸島に艦隊を派遣し、軍事施設の建設を進めたため、緊張が高まった経緯があります。

1974年当時の南ベトナムは、ベトナム戦争末期の非常に厳しい状況下に置かれていました。前年のパリ和平協定によってアメリカ軍が撤退し、わずかな軍事顧問を残すのみでした。南ベトナム海軍はアメリカから供与された旧式の艦艇を主力としており、護衛[[駆逐艦]]のような比較的大型の艦艇は保有していたものの、実戦経験が乏しく、練度も高いとは言えませんでした。

一方、中国は文化大革命の混乱期にありましたが、海軍の近代化を推し進めていました。主力艦艇はソ連から供与された駆逐艦や潜水艦でしたが、1960年代後半からは上海型哨戒艇のような小型艦艇の国産化に成功していました。西沙諸島を担当する部隊は、湛江市に司令部を置く南海艦隊でした。また、西沙諸島はベトナム本土よりも中国本土に近く、中国側の航空部隊の作戦圏内に含まれていました。

1974年1月11日、中国政府は、西沙諸島が自国領土であることを改めて主張する声明を発表しました。これは、前年9月に南ベトナム政府が、同じく中国と係争中の南沙諸島をフートイ省に編入する旨を発表したことへの対抗措置でした。中国政府の主張は従来からのものに加えて、島嶼だけでなく周辺海域の支配権まで言及した点が新しく、大陸棚資源を確保しようという戦略的な意図が明確に示されていました。

戦闘経過

対峙と小競り合い

1月15日、南ベトナム海軍の哨戒艦リ・トン・キェトが西沙諸島を哨戒中に、永楽群島の甘泉島で中国国旗が掲揚され、沖に中国の大型漁船が停泊しているのを発見しました。リ・トン・キェトは中国漁船に退去を命じ、陸上の中国国旗に向けて威嚇射撃を行いました。

1月17日、中国と南ベトナムはそれぞれ増援部隊を現地に派遣しました。南ベトナム軍は、護衛[[駆逐艦]]チェン・チン・ユーと哨戒艦チェン・ピン・チョンに歩兵を乗せて派遣し、甘泉島と金銀島に展開させました。中国軍は、楡林基地第38002部隊副司令員の魏鳴森を指揮官として、駆潜艇2隻に歩兵を乗せて送り込み、普卿島・深航島・広金島を占領しました。その他にも、艦艇や航空機が出動しました。

1月18日、南ベトナムは哨戒艇ヌータオを増派して永楽島付近を警戒させました。中国側は駆潜艇4隻、掃海艇2隻の態勢を整えており、中国漁船2隻も依然として周辺海域に留まり、南ベトナム艦艇と体当たりを繰り返していました。

西沙海戦

1月19日午前7時40分、南ベトナム軍兵士が広金島に上陸を開始し、同島の中国軍と銃撃戦が始まりました。中国艦隊も駆け付け、午前8時頃から両軍艦艇が互いに進路妨害や体当たりを始めました。

午前10時22分、南ベトナム艦隊が発砲し、本格的な交戦状態に突入しました。南ベトナム艦隊は、チェン・チン・ユーとチェン・ピン・チョンが隊列を組み、他の2艦はバラバラで行動しました。ヌータオと中国側掃海艇2隻は激しい接近戦となり、ヌータオと中国掃海艇389号が共に浸水・炎上しました。1時間足らずの交戦で南ベトナム艦隊は次々と損傷し、戦場離脱を試みました。中国側は12時過ぎに駆潜艇2隻を増援として送り込み、南ベトナム艦を追撃しました。低速のヌータオは逃げ切れず、中国艦隊の集中攻撃を受けて、午後2時52分に西沙諸島西部海域で沈没しました。

午後1時30分、中国軍部隊が永楽島に上陸して占領しました。この際、中国艦隊とベトナム艦「キーリン」の間でも交戦がありました。翌1月20日には、金銀島など3島にも中国軍が上陸し、航空機の援護の下で占領しました。地上戦で南ベトナム軍は約100人の死傷者を出しました。

結果

この戦いは中国軍の勝利に終わりました。南ベトナム軍は哨戒艇ヌータオが撃沈され、哨戒艦リ・トン・キェトが大破したほか、残る2隻も損傷しました。人的損害も多数の死傷者が出たほか、49人が捕虜となりました。中国軍は掃海艇389号が大破したほか、駆潜艇274号も損傷しました。人的損害は、中国側発表によると戦死18人、負傷者67人でした。

中国海軍の勝因は、速力や武装、特に近接戦に有利な速射砲の数において、中国艦が優位に立っていたことにあります。ベトナム艦は、船体こそ大型でも速力が遅く、武装も大口径砲が少数しかなく、より小型の中国艦に圧倒されました。戦術面でもベトナム側は、速力のばらつきが大きいため陣形を組まず、不利な接近戦を自ら挑むなど問題点が目立ちました。

この戦いの結果、西沙諸島から南ベトナムの勢力は排除され、中国が完全に実効支配することになりました。中国軍は、永興島に4階建ての建物やヘリポートを建設し、戦車部隊やミサイル艇を駐留させるなど要塞化を進めました。ベトナム戦争終結後、ベトナムを統一したベトナム社会主義共和国は、中国に対し西沙諸島の領有権を主張して外交交渉を求めましたが、中国政府は応じていません。1988年には、2600m級の滑走路を有する飛行場が完成し、南シナ海支配の戦略拠点となっています。同年には、中国軍が南沙諸島にも侵攻し、ベトナム軍を撃破して勢力下に置きました。

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