西部の娘

オペラ『西部の娘』について

『西部の娘』（原題：La fanciulla del West）は、ジャコモ・プッチーニが作曲した全3幕のオペラです。1910年にニューヨークで初演され、ゴールドラッシュ時代のカリフォルニアを舞台にした、愛と裏切り、そして赦しを描いた物語です。

基本情報

原題: La Fanciulla del West
原作: デイヴィッド・ベラスコの舞台劇『The Girl of the Golden West』
台本: カルロ・ザンガリーニ、グエルフォ・チヴィニーニ
作曲: ジャコモ・プッチーニ
作曲時期: 1907年着手、1910年完成
初演: 1910年12月10日、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場
演奏時間: 約2時間15分

作曲の経緯

プッチーニは1907年にニューヨークを訪れ、ベラスコの舞台劇『The Girl of the Golden West』に感銘を受け、オペラ化を決意しました。当初は『マリー・アントワネット』も候補に挙がっていましたが、最終的に『The Girl』に集中することになります。台本は、当初カルロ・ザンガリーニに依頼されましたが、作業が遅れたため、ジャーナリストのグエルフォ・チヴィニーニも加わり、共同で作成されました。

1908年から1909年にかけては、プッチーニの私生活において「ドーリア・マンフレーディ事件」が発生し、作曲作業が中断します。しかし、1909年末には作業を再開し、1910年に完成させました。

登場人物

ミニー: 酒場「ポルカ」の女主人（ソプラノ）
ディック・ジョンソン: 実は盗賊ラメレス（テノール）
ジャック・ランス: 保安官（バリトン）
ニック: 酒場「ポルカ」のバーテンダー（テノール）
アシュビー: ウェルス・ファーゴ銀行の代理人（バス）
その他: 鉱夫たち、インディアンなど

楽器編成

4管編成の巨大なオーケストラが使用され、プッチーニの作品中最大規模です。木管楽器はワーグナーの『パルシファル』とほぼ同じ編成であり、以下のような楽器が使われます。

木管楽器: ピッコロ、フルート、オーボエ、コーラングレ、クラリネット、バスクラリネット、ファゴット、コントラ[[ファゴット]]
金管楽器: ホルン、トランペット、トロンボーン、バストロンボーン（チンバッソ）
打楽器: ティンパニ、バスドラム、シンバル、スネアドラム、トライアングル、タムタム、グロッケンシュピール、チェレスタ
その他: ハープ、リボルバー拳銃の音、フォニカ
弦楽器: ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス

あらすじ

第1幕: 酒場「ポルカ」は、ゴールドラッシュに沸くカリフォルニアの鉱夫たちの憩いの場です。そこへ、盗賊ラメレスの噂が流れ、保安官ランスはミニーへの想いを語ります。そこに「ディック・ジョンソン」と名乗る男（実はラメレス）が現れ、ミニーは彼に惹かれていきます。ジョンソンはミニーの誘いを承諾し、夜に小屋で会う約束をします。

第2幕: ミニーの小屋では、ジョンソンとの再会を心待ちにするミニーがいました。ジョンソンは彼女を愛し始めますが、保安官ランスにその正体が知られてしまいます。ミニーはジョンソンを逃がそうとしますが、ランスに見つかり、ポーカーで決着をつけることになります。ミニーはイカサマを使って勝利し、ジョンソンを匿います。

第3幕: 数日後、ラメレスは捕らえられ、鉱夫たちに絞首刑にされようとしています。そこにミニーが現れ、ラメレスを救ってほしいと懇願します。彼女の情に打たれた鉱夫たちは、ラメレスを赦免し、二人はカリフォルニアを去って行きます。

初演と評価

1910年12月10日、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で初演され、大成功を収めました。しかし、その後ヨーロッパでの評価は、初演時ほどの熱狂はなく、現在では、プッチーニの他の代表作に比べて、上演頻度は低い傾向にあります。その理由として、アリアのメロディの覚えにくさ、大胆な不協和音の使用、西部劇の舞台設定などが挙げられます。一方で、全音音階を多用した先進的な音楽性は評価されることもあります。

日本初演

日本初演は1963年11月2日、東京文化会館でNHK招聘のイタリア歌劇団によって行われました。ジョンソン役は当初マリオ・デル＝モナコが予定されていましたが、病気のため、ガストーネ・リマリッリとアントニオ・アンナローロが代役を務めました。

参考文献

総譜『La Fanciulla del West』、ドーヴァー社
Conrad Wilson, 『Giacomo Puccini』, Phaidon社
Annie J. Rendall and Rosalind Gray Davis, 『Puccini and the Girl: History and Reception of the Girl of the Golden West』, Univ. of Chicago Press

外部リンク

西部の娘の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)
玉崎紀子「オペラ『西部の娘』とアメリカーナ」
玉崎紀子「西部の娘 : 原作戯曲、オペラそしてミュージカル」
* 玉崎紀子「『西部の娘』：仮装と変容のドラマ」

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