解深密経

『解深密経』とは

『解深密経』（げじんみっきょう、梵: Saṃdhinirmocana Sūtra）は、大乗仏教の中期に成立した重要な経典の一つであり、特に唯識派や法相宗の信奉者において重視されています。この経典は、「サンディ」という言葉が「結合・連結」を意味し、「ニルモーチャナ」が「解放」、そして「スートラ」は「経」を指すことから、総じて「解放（解脱）へとつながる経」と理解されます。

歴史的背景

『解深密経』の成立は、仏教の偉大な思想家・龍樹の後、遅くとも西暦4世紀頃とされており、この時期は大乗仏教の教義が急速に発展していた時代でした。この経典は、特に唯識思想の形成に寄与するものと考えられています。

書誌と翻訳

漢訳においては、北魏時代の菩提流支による『深密解脱経』や、唐の玄奘による『解深密経』が有名です。また、宋代には求那跋陀羅の『相続解脱経』や、陳の真諦による『仏説解節経』が部分的に翻訳されています。大正新脩大蔵経には、これらの経典が収められており、現存する資料は漢訳とチベット語訳が中心です。チベット語訳は全訳『dgongs pa nges par 'grel』として知られていますが、サンスクリット本は現存しません。

構成と内容

玄奘訳の『解深密経』は五巻八品から構成されており、それぞれの巻で異なる教えが展開されています。序品第一では、仏が多くの信者を前に説法を行う情景が描かれ、勝義諦相品第二では真理の本質について論じられています。心意識相品第三では、心の働きや意識についての解説がなされ、無自性相品第五では、さまざまな「無自性」の概念を詳説しています。

分別瑜伽品第六では「唯識」という用語が初めて登場し、識の本質と唯識の関係について深く探求されます。地波羅蜜多品第七や如来成所作事品第八では、菩薩の修行や如来の法身についての重要な教えが示されています。

注釈と影響

この経典は唐代に多くの注釈を受けており、特に新羅出身の学僧による研究が進められました。円測による『解深密経疏』が現在も広く利用されていますが、他の注釈書は現存しないか、部分的に欠損しています。また、チベットの注釈書に関しても数種類が存在しますが、現在確認できるものは限られています。

終わりに

『解深密経』は、その教義が多くの後代の仏教思想に影響を与え、特に唯識学派の発展において中心的な役割を果たしました。大乗仏教の理論的な枠組みを深めるための鍵となる経典として、今後も研究が続けられることでしょう。

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