謝花凡太郎

謝花 凡太郎

謝花 凡太郎（しゃばな ぼんたろう、または「しゃか」とも、1891年〈明治24年〉 - 1963年〈昭和38年〉）は、日本の漫画家です。児童文化の歴史において重要な影響を与えた人物であり、特に戦前から戦中にかけて、中村書店を代表する人気作家として活躍しました。本名は殿木 真三（とのぎ しんぞう）といいます。

生涯と経歴

東京都日本橋の出身で、慶應義塾大学を卒業しています。大学を卒業した後はサラリーマンとして働いた後、自ら会社を設立するなど様々な経歴を歩みましたが、特定の職に長く留まることはなかったようです。漫画家としての活動を始めたのは比較的遅く、40歳を過ぎてからのことでした。1933年（昭和8年）に、中村書店から刊行された『びっくり突進隊』で漫画家としてデビューを果たします。戦後も漫画制作を続け、児童向け漫画雑誌の代表格であった『漫画少年』などで多くの作品を発表しました。

漫画の執筆活動と並行して、謝花は別の分野でも才能を発揮しました。1940年（昭和15年）頃からは、中学校で書道の指導にあたっています。この書道の仕事は戦後も漫画の執筆と並行して続けられ、謝花が亡くなるまで携わった活動の一つとなりました。

経歴の謎と解明

長年にわたり、謝花凡太郎の正確な生没年や詳細な経歴は、関係者や研究者の間でも不明な点が多く、一種の謎とされていました。漫画家の手塚治虫は、1982年（昭和57年）に晶文社から出版された著書『OH! 漫画』の中で、謝花が千葉県の出身であり、書道に非常に長けた人物であったことに言及していますが、具体的な情報は限られていました。

しかし、2006年（平成18年）に、出版美術評論家の三谷薫氏が謝花の遺族の所在を突き止めました。そして、漫画評論家の清水勲氏が主宰する研究誌『諷刺画研究』の第49号にて、その調査結果を発表したことにより、これまで謎に包まれていた謝花凡太郎の数々の経歴に関する詳細が明らかとなりました。この功績により、日本の児童漫画史における謝花凡太郎という存在が、より明確に位置づけられることとなったのです。

作品と評価

謝花凡太郎は、戦前から児童向けの良質な漫画本を多数出版していた中村書店において、特に高い人気を誇った作家の一人です。清水勲氏は、自身の著書『「漫画少年」と赤本マンガ - 戦後マンガの誕生 -』の中で、断りつつも謝花の単行本リストを掲載しており、その大半が戦前や戦中に中村書店から刊行されたものであることが示されています。1933年（昭和8年）から1943年（昭和18年）までの10年間で、中村書店から出版された単行本は、共著を含めて実に28冊にも上ります。これは当時の漫画家としては非常に珍しい多作ぶりであり、謝花がいかに中心的で精力的な作家であったかを物語っています。戦後に出版された単行本は、戦前の再版や他の作家との共著、他社からの刊行と思われるものを含めても、その数は限定的です。

謝花の作品は、その画風に特徴があります。温かみのある描線は、まるで絵本を思わせるような美しい絵柄を生み出しており、そこに物語の面白さが加わることで、多くの読者である子どもたちの心を捉えました。『漫画少年』に発表された作品の多くは、世界的に知られる名作や、あるいは怪奇的な題材を基に漫画化されたものですが、いずれも「気品のある童画調の漫画」として高く評価されています。その温かい絵柄と丁寧な語り口は、日本の児童漫画の発展に寄与したと言えるでしょう。

参考文献

清水勲 『「漫画少年」と赤本マンガ - 戦後マンガの誕生 -』 刀水書房、1989年。
長谷邦夫 『ニッポン漫画家名鑑』 データハウス、1994年。
* 清水勲 『年表漫画史』 臨川書店、2007年。

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