譚淵

譚淵（たん えん）は、生年不詳ながら、明代初期に活躍した軍人です。本貫は滁州清流県であり、父の跡を継いで燕山右護衛副千戸という役職に就きました。彼の人生を語る上で欠かせないのが、1399年に勃発した靖難の変です。

この戦乱において、譚淵は燕王朱棣（後の永楽帝）の麾下で目覚ましい働きを見せます。彼はまず、首都の九門を制圧するという重要な任務を成功させ、その武勇を示しました。さらに、雄県の攻略戦では、潘忠と楊松が率いる援軍を迎え撃つため、奇策を用いて敵軍を撃破しました。譚淵は、1000人余りの兵を率い、月漾橋の水中に潜伏。兵士たちはそれぞれ草を束ねて頭部を隠し、鼻だけを出して呼吸をしながら、敵軍が橋を通過するのを待ちました。そして、敵が橋を渡りきったところで、奇襲をかけて橋を占拠。これにより、潘忠らの軍勢は退路を断たれ、壊滅的な打撃を受けました。この功績により、譚淵は都指揮同知へと昇進しました。

その後も、譚淵は朱棣に従って各地を転戦。真定の戦いでは、張玉と共に耿炳文の軍を挟撃し、その副将の李堅や甯忠、都督の顧成らを捕縛、3万もの敵兵を討ち取るという大戦果を挙げました。彼の武勇は際立っており、2張の石弓を自在に操り、その射撃は百発百中だったと伝えられています。

しかし、譚淵は勇猛な武将である一方で、非常に好戦的な性格でもありました。その性格が災いし、後世に語り継がれることとなる事件が起こります。燕軍が滄州を陥落させた際、朱棣は降伏した兵士たちを解放するよう命じました。しかし、その命令が届かなかった3000人余りの兵士たちが、解放の文書を待っている状況でした。この時、譚淵は独断で彼ら全員を一夜にして殺戮してしまったのです。これを知った朱棣は激怒しましたが、譚淵は「彼らはみな精強な兵士であり、釈放すれば後々禍根となる」と言い訳しました。しかし、朱棣は「お前の理屈では、敵を皆殺しにすれば、敵はいなくなるのか？」と反論し、譚淵は恥じ入って引き下がったとされています。

譚淵の武勇は、その最期まで衰えることはありませんでした。1401年、夾河の戦いにおいて、先頭に立って敵陣に突撃しましたが、乗っていた馬が倒れてしまい、戦死を遂げました。

1402年、朱棣が永楽帝として即位すると、譚淵の功績が改めて評価され、都指揮使の位が追贈されるとともに、崇安侯の爵位が贈られました。さらに、その武勇を讃え、「壮節」という諡号が贈られました。

譚淵の息子である譚忠もまた、父に劣らぬ功績を挙げました。彼は、靖難の変で燕王朱棣に従って南京に入城し、その功績により、父の旧封である新寧伯の爵位を継承しました。1423年には、永楽帝の第四次漠北遠征に従軍し、右哨を率いてゴビ砂漠にまで進軍。さらに、1426年には、楽安州で発生した漢王朱高煦の乱の鎮圧にも参加しました。しかし、1428年のベトナム遠征において、規律違反を犯したとして捕らえられ、死刑を宣告されます。その後、恩赦により釈放されたものの、間もなく死去しました。彼の息子である譚璟は、父の跡を継ぐことを願い出ましたが、吏部からは譚忠が罪を犯して死んだことを理由に、襲封に相当しないと判断されました。しかし、宣徳帝は、鉄券により死罪を免除することが明文化されていることから、譚璟の襲封を認めました。

譚淵は、その生涯において、武勇と功績を残した一方で、その過剰なまでの好戦的な性格が災いし、殺戮行為に及ぶこともありました。しかし、彼の勇猛果敢な戦いぶりは、明代初期の歴史において、特筆すべきものとして記録されています。


参考文献
『明史』巻145 列伝第33

もう一度検索