谷恒生

谷恒生（たに こうせい）

谷恒生（1945年9月18日 - 2003年7月9日）は、日本の小説家。本名は谷 恒生（たに つねお）。海洋冒険小説、伝奇小説、時代小説、架空戦記など、多岐にわたるジャンルで活躍しました。

生涯

東京都に生まれ、国立市で育ちました。幼少期から「三国志」「水滸伝」などの古典や、「三銃士」「大地」「ジャン・クリストフ」といった海外文学に親しみました。鳥羽商船高等専門学校に進学し、在学中は高橋和巳の作品を愛読しました。卒業後は日本海汽船、次いでジャパン・マリンに勤務し、外国航路の一等航海士として世界各地を航海しました。

航海士時代に北杜夫の「どくとるマンボウ航海記」を読んだことがきっかけで、自身も航海記を書きたいと考えるようになり、作家を志すようになりました。「船乗りであるからには、船と海を舞台にした劇的な小説を書きたい」という思いから、1975年に船を降り、短編「冬の前戦」で『野性時代』新人文学賞の佳作を受賞。1976年には「港」で同賞の候補となり、『小説現代』新人賞でも次点となりました。

1977年4月、航海士としての経験を活かした冒険小説『喜望峰』『マラッカ海峡』の2冊を同時刊行し、作家デビューを果たしました。『喜望峰』は第77回直木賞の候補となり、同じく海洋小説の『ホーン岬』も第79回直木賞候補にノミネートされました。1981年には『フンボルト海流』で角川小説賞を受賞しています。

その後も海洋冒険小説を精力的に発表する一方で、1981年にはアジアの都会を舞台にした『バンコク楽宮ホテル』で新たな境地を開拓。1982年からは『魍魎伝説』で伝奇小説にも進出しました。1983年には日本冒険作家クラブの創設に参加しました。

ルドルフ・シュタイナーの人智学に傾倒し、1980年代半ばからはシュタイナー教育を実践する幼稚園に娘を入園させるため、栃木県那須野が原の黒磯市に移住しました。

1987年には剣豪・斎藤伝鬼房を題材とした時代小説を発表し、その後も海洋を舞台にした『戦国の嵐』や、毛利元就を描いた『青雲の鷲』などの時代小説、時代伝奇『寒月一凍 悪霊斬り』などを執筆しました。1991年以降は『警視庁歌舞伎町分室』シリーズなどのアクション小説、1993年からは『超大本営・戦艦大和』などの架空戦記も手がけるなど、多岐にわたるジャンルで作品を発表しました。

2003年7月9日、食道癌のため57歳で死去しました。

人物

1971年頃、俳優の中村敦夫や原田芳雄らと知り合い、彼らと共に三里塚闘争での街頭演劇に参加しました。『喜望峰』には中村と原田が推薦文を寄せています。原田によると、谷は自宅にも頻繁に訪れており、当時原田のマネージャーを務めていた夏文彦（冨田幹雄）とも親交を結びました。夏は集英社文庫版『マラッカ海峡』で解説を務めており、『喜望峰』を出版前の校正刷で読んだことを明かしています。

書評家の北上次郎とも親交があり、谷が北上の結婚式に出席する一方で、北上も谷の自宅に泊まったことがあるといいます。作家との個人的な交流を極力避けていた北上にとっては異例のことで、「プライベートで作家の家に行ったのはこのときが初めてで、その後もない」と谷との交流を振り返っています。

旧友からは、作家を目指す執念と容貌からジョージ秋山の漫画『銭ゲバ』の主人公にちなんで「ゲバ」と呼ばれていました。航海士時代からギャンブルに強く、作家デビュー後は麻雀の文壇名人戦の常連となりました。

作風と作品

谷恒生の作品は、海洋冒険小説から伝奇小説、時代小説、架空戦記まで、幅広いジャンルに及びます。初期には、航海士としての経験を活かした海洋冒険小説で注目を集めました。その作品は、荒削りながらも、船員としての実体験に基づいた描写が評価されています。その後、ルドルフ・シュタイナーの人智学に影響を受け、伝奇小説にも進出。オカルト的な要素を取り入れた作品は、伝奇バイオレンスと呼ばれるジャンルの先駆けとなりました。また、時代小説では、海洋を舞台にした冒険活劇や、歴史上の人物を新たな視点で描いた作品を発表しています。架空戦記では、史実を基にしながらも、大胆な発想で展開する物語が特徴です。

代表作として、『喜望峰』『マラッカ海峡』『フンボルト海流』『バンコク楽宮ホテル』『魍魎伝説』シリーズ、『戦国の嵐』『青雲の鷲』『超大本営・戦艦大和』シリーズなどが挙げられます。

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