貞享騒動

貞享騒動（加助騒動）とは

貞享騒動は、1686年（貞享3年）に信濃国松本藩で発生した大規模な百姓一揆です。この一揆は、中心人物である多田加助の名前から「加助騒動」とも呼ばれています。背景には、当時の松本藩による過酷な年貢増徴がありました。

騒動の経緯

1686年、安曇平は不作に見舞われました。それにもかかわらず、松本藩は年貢の取り立て方法を改め、1俵あたりの容量を従来の3斗から3斗5升に引き上げました。これは、周辺の藩が1俵あたり2斗5升であるのと比較して、1.4倍以上という大幅な増税です。さらに、当時の安曇野平では、収穫される米の7割がノギの長い赤米であり、従来はノギ付きのまま納入が認められていたにも関わらず、藩はノギの除去を農民に義務付けました。これにより、農民は過酷な脱穀作業に加え、ノギ取りという重労働を強いられることになりました。

このような状況下で、安曇郡長尾組の中萱村の元庄屋である多田加助は、同志11名と密かに集まり、窮状を打開するための策を練りました。その結果、松本の郡奉行所へ直接訴え出ることを決定。10月14日、1万とも言われる農民が松本城周辺に集結し、減税などを求める訴状を提出しました。

当時の藩主、水野忠直は参勤交代で江戸に滞在しており、城代家老は事態を収束させるため、一時的に農民側の要求を受け入れました。しかし、江戸の藩主の裁可を得た後、藩は約束を反故にし、関係者の捕縛を開始。最終的に多田加助とその一族、同志たちは、安曇郡と筑摩郡の刑場で磔や獄門などの極刑に処されました。処刑された中には、加助の参謀役であった小穴善兵衛の16歳の娘も含まれていました。また、善兵衛の妻が産んだばかりの男児にも死刑が宣告されるという、凄惨な結末を迎えました。この騒動の結果、年貢は元の3斗に引き下げられ、ノギ取り作業は免除されました。

鈴木伊織の奔走

一説には、江戸詰の藩士・鈴木伊織が多田らの処刑に反対し、藩主から処刑中止の許可を得たとされています。鈴木は急いで松本へ向かいましたが、松本近郊で乗っていた馬が倒れ、自身も昏倒したため、処刑に間に合いませんでした。この場所は「駒町」として地名に残っています。鈴木は領民保護に尽力した人物として知られており、「伊織霊水」という井戸が復元されています。

加助神社と義民塚

騒動後、1725年に藩主が交代したのを機に、義民の顕彰が始まりました。1736年には多田家で加助らを祀る祠が建てられ、1880年には加助神社が建立されました。この際、他の義民も合祀され、明治時代には水野家から加助の坐像と金一封が寄贈されました。また、水野忠直も合祀されています。

1950年、丸ノ内中学校の建設現場で人骨が発見され、貞享騒動の刑死者のものと判明しました。この場所は当時の刑場跡とされ、慰霊のために義民塚がつくられました。また、貞享義民社も設立され、現在では春秋2回の例大祭が執り行われています。1986年には、騒動300年祭を記念して最寄りの駅が義民社を模して改築されました。

自由民権運動との関わり

明治時代に入り、加助らの抵抗の姿勢が自由民権運動と結びつき、加助は「義民」として再評価されるようになりました。1878年には松沢求策が加助をテーマにした新聞寄稿を始め、翌年には「民権鑑加助の面影」として脚色され、各地で上演されました。これにより、貞享騒動は民権運動を推進する手段として深く浸透しました。また、木下尚江らによる普選運動にも影響を与え、1916年には半井桃水による新聞小説「義民加助」が連載され、全国的に知られるようになりました。

貞享義民記念館

1992年、貞享義民社の向かいに貞享義民記念館が開館し、この騒動を顕彰しています。

まとめ

貞享騒動は、過酷な年貢増徴に立ち上がった農民たちの抵抗と、その後の顕彰活動を通して、歴史に名を刻んだ出来事です。多田加助ら義民たちの物語は、現代においても多くの人々に語り継がれています。

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