足立克己

足立 克己（あだち かつみ）

日本の漫才作家、放送作家。1932年（昭和7年）11月4日に大阪府大阪市で誕生し、2000年（平成12年）1月19日にその生涯を閉じた。

生涯と経歴

大阪でパン店を営む家に生まれた足立克己は、旧制大阪府立北野中学校から学制改革を経て大阪府立北野高等学校に進み、1951年（昭和26年）に卒業した。同年、大阪外国語大学中国語科に入学するもわずか3ヶ月で中退し、翌年に和歌山大学経済学部へ進んだ。大学時代は野球部で一番・遊撃手としてレギュラーを務め、近畿六大学野球リーグで表彰されるなど活躍した。また、この頃から寄席に足繁く通い、演芸の世界に強い関心を持つようになった。

卒業後は一般企業への就職を志したが、結核による胸膜炎を患い、療養生活を余儀なくされた。この入院期間中、ラジオで放送される演芸番組を聴くことが唯一の慰めとなり、漫才作家への道を意識するきっかけとなった。

病状が回復した1956年（昭和31年）、NHK大阪放送局が募集していた漫才台本に応募し、「機械人間」という作品が入選。この台本は秋田Aスケ・Bスケによってラジオの特別番組で演じられた。この機会を通じて、特別番組の構成を担当していた高名な漫才作家、秋田實と面会する機会を得た。父親の知人の伝手を頼り、面談の場で直接弟子入りを懇願。秋田實が設立したばかりの「上方演芸」に文芸部員として入社し、プロ作家としての第一歩を踏み出した。

NHKラジオの番組『浪花演芸会』への台本提供を皮切りに作家活動を開始。常に師である秋田實と行動を共にし、秋田が設立に参画した松竹新演芸（後の松竹芸能）にも専属作家として所属した。しかし、1967年（昭和42年）頃、秋田の松竹退社と前後して自身も松竹を離れ、翌年秋田が設立したケーエープロダクションの顧問に就任。以降は特定の事務所に専属せず、フリーランスの立場で多岐にわたる活動を展開した。

業績

漫才作家として、足立克己は「昭和三十年代からのコンビであればほとんど」に台本を提供したと自称しており、その数は「今迄に二千本近く」に及ぶという。横山やすし・西川きよし、コメディNo.1、宮川大助・花子といった、時代の顔ともいえる人気漫才師たちのネタを数多く手がけ、上方漫才の黄金期を台本作家として支えた。また、海原お浜・小浜の引退リサイタル（1978年）の構成を務めるなど、特定のコンビの大きな節目にも携わった。

漫才台本の執筆に加え、放送作家としても活躍し、テレビ・ラジオの多くの番組で構成・脚本を担当した。毎日放送テレビの『仁鶴の大入り満員』『やすきよの結婚します!』、朝日放送テレビの『霊感ヤマカン第六感』『三枝の結婚ゲーム』など、演芸番組からバラエティ、視聴者参加型番組に至るまで、その担当番組は幅広い分野に及んだ。

人物・エピソード

趣味は麻雀と競馬。麻雀は実家のパン店の従業員から手ほどきを受け、競馬は愛好家であった師匠の秋田實に帯同するうちに趣味となったという。競馬に関しては造詣が深く、長年にわたり『日刊スポーツ』で競馬予想記事の執筆も担当していた。

作家生活30年を迎えようとしていた1984年（昭和59年）には、毎日放送テレビの特別番組『必笑!! 上方漫才大全集』の中で、自身の略歴を紹介する企画として、舞台上で若井けんじと共に漫才を披露するという異色の経験もしている。

高見孔二などの弟子を育て、後進の育成にも関わった。

著書

『じすいず漫才 愛すべき芸人たち』（弘文出版 1984年）
『いいたい放題 上方漫才史』（東方出版 1994年）

これらの著書は、上方漫才の歴史や芸人たちについて、作家ならではの視点から語られた貴重な記録となっている。

秋田實門下には、松竹芸能創業者の一人である藤井康民や、後に作家に転向した志摩八郎といった人物もおり、足立克己は彼らと共に、戦後の上方演芸界の復興と発展に重要な役割を果たした一人と言える。

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