連合軍軍政期 (オーストリア)

オーストリアにおける連合軍軍政期



第二次世界大戦終結後のオーストリアは、1945年4月13日から1955年10月26日にかけて、ソビエト連邦、アメリカ合衆国、イギリス、フランスの連合国4か国による占領統治下に置かれていました。この期間をオーストリアの連合軍軍政期と呼びます。同時期に連合国の占領下にあったドイツとは異なり、オーストリアでは占領下にもかかわらず連合国から承認された臨時政府が存在したことが大きな特徴です。これにより、冷戦の激化という国際情勢の中で、中央政府の構築プロセスを円滑に進めることが可能となり、結果としてドイツのような分断国家となる事態を回避して主権回復を達成しました。

アンシュルスとモスクワ宣言



オーストリアは1938年3月13日にナチス・ドイツに併合（アンシュルス）され、その一部となっていました。第二次世界大戦中の1943年11月1日、連合国はモスクワで会談し、アンシュルスの無効を宣言するとともに、終戦後にオーストリアを元の状態に戻すことを決定しました（モスクワ宣言）。この宣言では、オーストリアはヒトラーの侵略の最初の犠牲国であると同時に、戦争への協力があったことも指摘され、解放への貢献度に応じた最終的な責任追及があり得るとされました。

臨時政府の樹立と占領開始



1945年に入り、ソビエト赤軍がオーストリア国境を越え、4月には首都ウィーンが攻防の末に赤軍の手に落ちました（ウィーン攻勢）。赤軍司令官はナチス時代の措置の無効と独立オーストリア再建を宣言。これを受け、第一共和国時代の首相であったカール・レンナーは、社会党、国民党、共産党の三党合意に基づき、4月27日に臨時政府を樹立し、1938年のアンシュルスは無効であること、そして1920年の憲法に基づく共和国の再建を宣言しました。同時に、自由な選挙による代表選出の準備を開始することが告示されました。臨時政府はレンナーを首相とし、三党から無任所大臣が任命されました。

終戦後、レンナー臨時政府は連合国に承認されますが、オーストリアの国土は連合国4か国によって分割占領されることになります。ウィーンは首都としての重要性から、ベルリンと同様に4か国の共同管理下に置かれました。連合国承認の政府が確立されるまで、占領国の代表からなる連合国オーストリア委員会が最高権力機関となりましたが、1945年10月には臨時政府の権限が連合国によって承認され、オーストリアは「制限的な主権を有する国家」として再出発しました。

国土の分割と戦後復興



国土は主に以下の4つの占領区域に分けられました。

1945年11月には戦後初の議会選挙が行われ、国民党が勝利。レンナーは連邦大統領に選出され、レオポルト・フィグルが首相となりました。政府は戦後復興を進め、1946年には国有化法を制定。銀行、大企業、鉱業、鉄鋼、石油化学といった基幹産業や公共事業の国有化を推進しました。これにはナチス・ドイツが設立した工場なども多く含まれていました。また、イタリアとの間で南チロルに関する協定が結ばれました。一方で、戦前からの国内右派勢力の一部は一時的に参政権を剥奪されていましたが、1949年の総選挙までに規制が解除され、政治参加が回復しました。

主権回復と永世中立



1947年1月からは、オーストリアは連合国との間で講和交渉を開始しました。交渉では領土問題（特にユーゴスラビアのケルンテン要求）や、オーストリア企業がドイツ国内に有していた資産の扱いなどが争点となりました。1948年にはユーゴスラビアとソ連の関係が悪化し、ソ連がユーゴの領土要求を支持しなくなったことで交渉は一歩前進。さらに1953年のヨシフ・スターリン死去が講和実現を現実的なものとしました。

長年にわたる交渉を経て、1955年5月15日に連合諸国とオーストリアの間でオーストリア国家条約が署名され、同年7月27日に発効。これにより、オーストリアは正式に独立を回復し、主権を取り戻しました。連合軍部隊は10月25日までにオーストリアから完全に撤退しました。その翌日の10月26日、オーストリア政府は永世中立国となることを宣言。この日は現在、オーストリアの建国記念日として祝日となっています。オーストリアの永世中立は国際的な保障があるスイスなどとは異なり、自国の憲法に基づく武装中立であり、東西陣営からの承認を得るためには積極的な平和貢献が必要とされる性質のものでした。この国家条約と永世中立宣言によって、オーストリアは戦後の占領時代を終え、新たな歴史の歩みを開始したのです。

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