鄭林

鄭林（てい りん、生没年不詳）は、五胡十六国時代の前燕に仕えた人物であり、北海郡の出身です。彼の生涯は、当時の混乱した社会情勢の中で、独自の判断力と行動力によって特徴づけられています。

319年、鄭林は東萊に足を踏み入れました。当時の青州は、曹嶷と鞠彭という二人の勢力によって支配権が争われ、戦乱が絶えない状況でした。鄭林は、この状況を冷静に分析し、曹嶷と鞠彭のいずれも民を顧みる心がないと判断しました。彼は、その考えを公然と述べ、曹嶷に対して「あなたも鞠彭も民への愛情がない」と説きました。曹嶷は、鄭林の言葉を賢明な意見として受け入れ、鞠彭への攻撃を中止しました。一方、鞠彭は鄭林の言葉に感銘を受け、彼と共に青州を去る決断をしました。

同年12月、鄭林は遼東に到着し、東晋の平州刺史である崔毖を頼ろうとしました。しかし、崔毖は既に高句麗へ逃亡しており、鄭林は新たな庇護者を求める必要に迫られました。そこで彼は、鮮卑慕容部の大人である慕容廆に帰服することを決意しました。慕容廆は、鄭林の才能を高く評価し、彼に対して牛車や穀物、その他の物資を送りましたが、鄭林はこれらを全て辞退し、自給自足の生活を送ることを選びました。この行動は、彼の清廉潔白な人柄を示すものとして、慕容廆の信頼をさらに深めることとなりました。

321年12月、慕容廆は東晋から車騎将軍・都督幽平二州東夷諸軍事・平州牧に任じられ、遼東公に封じられました。この地位の確立に伴い、慕容廆は官僚組織の編成に着手し、鄭林は黄泓と共に参軍に任じられました。参軍としての鄭林は、政権の中枢において重要な役割を担い、慕容廆の政策決定に深く関与しました。その後、鄭林はその能力を認められ、中尉に任じられました。中尉は軍事的な役割を担う重要な役職であり、鄭林の軍事的手腕が評価されたことを示しています。

341年7月、鄭林は軍諮祭酒に任じられました。軍諮祭酒は、軍事に関する相談役であり、高度な知識と経験が求められる役職です。鄭林は、この役職においても、その才能を遺憾なく発揮し、慕容皝の軍事戦略に貢献しました。

しかし、鄭林の事績は、この軍諮祭酒への任官以降、史書には記録されていません。そのため、彼の晩年や死去に関する詳しい情報は不明です。しかし、彼の残した功績は、前燕の発展に大きく貢献したことは間違いありません。

鄭林は、激動の時代において、常に冷静な判断力と行動力を持ち、自らの信念を貫き通した人物でした。彼の生き方は、現代においても、私たちに多くの示唆を与えてくれます。

参考文献

• - 『資治通鑑』巻91、巻96
• - 『十六国春秋』巻23、巻25

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