鞠彭

鞠彭（きく ほう）

鞠彭は、五胡十六国時代の前燕に生きた人物で、その生涯は激動の時代を反映しています。彼の出自は東萊郡（現在の山東省一帯）であり、父は西晋時代の東萊郡太守であった鞠羨です。

生涯

若き日の苦難と台頭

永嘉元年（307年）、父の鞠羨は王弥討伐の際に戦死。その後、鞠彭は青州刺史の苟晞によって東萊郡太守に任じられ、前趙の曹嶷との間で幾度となく戦いを繰り広げました。曹嶷の勢力が優勢であったにもかかわらず、鞠彭は人心掌握に長けており、兵士たちは死力を尽くして戦ったため、曹嶷はなかなか彼を打ち破ることができませんでした。

故郷を想う決断

大興2年（319年）、鞠彭は天下の混乱を憂い、曹嶷との争いを止める決意をします。彼は「強者こそが英雄であるこの時代に、同郷である曹嶷と争うべきではない。互いに助け合って民を治めるべきだ」と考え、争いを避けるため、郷里の数千人を連れて海を渡り、平州刺史の崔毖を頼りました。しかし、崔毖はすでに高句麗へ亡命していたため、慕容部の大人である慕容廆に帰順しました。慕容廆は彼を歓迎し、参龍驤軍事に任じました。

楽浪郡太守として

その後、楽浪郡太守に任じられた鞠彭は、咸康4年（338年）に後趙の石虎が前燕に侵攻した際、領民が後趙に寝返るという状況に直面しました。それでも彼は、わずか二百人余りの兵と共に棘城に帰還し、数十万の敵兵に対して数百人の壮士を選抜して城を固守し、奮戦しました。後趙軍が撤退した後、彼はその功績により大いに賞賛されました。

大長秋として

やがて鞠彭は、宦官の最高位である大長秋に任じられました。

子への戒めと地域への貢献

元璽4年（355年）、子の鞠殷が東萊郡太守に任じられると、鞠彭は彼に手紙を送り、かつての敵である王弥と曹嶷の子孫を慰撫し、旧怨によって混乱を招かないように戒めました。鞠殷は父の教えに従い、王弥の従子である王立と曹嶷の孫である曹巌を探し出して交流を深め、鞠彭もまた使者を派遣して彼らに贈り物を与えました。この結果、郡の民衆は安寧を得ることができたと言われています。

鞠彭の生涯は、激動の時代において、故郷の民を想い、争いを避け、地域を安定させるために尽力した人物として、後世に語り継がれています。

参考文献

『晋書』巻108、巻109
『資治通鑑』巻86、巻91、巻96、巻100
* 『十六国春秋』前燕録

もう一度検索