慕容部

慕容部とは

慕容部（ぼようぶ）は、4世紀初頭から5世紀中期にかけて、現在の中国東北部から華北にかけて活動した鮮卑系の部族です。五胡十六国時代には、前燕、後燕、西燕、南燕といった国々を建国しました。慕容氏は、その卓越した軍事力と政治手腕で、この激動の時代を生き抜きました。

名称の由来

「慕容」という名称の起源には諸説あります。

モンゴル語で「富」を意味する「bayan」の音訳説
大凌河の古名「白狼水」に由来するという説
族人が好んで用いた歩揺冠が変化したとする説
『晋書』の記述「二儀の徳を慕い、三光の容を継ぐ」から取られたとする説
慕容寺という場所に拠点を構えたことに由来するという説

このように、様々な説がありますが、確たる証拠は不明です。

起源

慕容部の起源は、『晋書』慕容廆載記によると、魏の時代に莫護跋という人物が遼西に移住し、238年に司馬懿の公孫淵討伐に功績を挙げたことで、率義王に封じられ、棘城の北に拠点を築いたとされています。

また、『太平御覧』には、慕容廆の祖先である乾羅が、白い馬に乗って天から降臨したという伝説も残されています。これは、慕容部が特別な出自を持つことを示す意図があったと考えられます。

歴史

慕容部の歴史は、『三国志』に2世紀半ばに檀石槐が支配領域を三分した際、その中部の大人に慕容氏の名が見えることから始まります。この頃、慕容部は現在の右北平郡から上谷郡にかけて遊牧生活を送っていたと推測されます。

3世紀初頭には、大凌河流域から遼西地方の棘城付近に移動し、慕容渉帰が西晋によって鮮卑単于に封じられます。その後、宇文部に圧迫され遼東地方に移動しましたが、慕容廆の時代に再び遼西地方に戻り、遊牧生活とともに農耕も行うようになりました。この農耕への移行には、東方にいた夫余の影響があったと考えられます。同時に、漢民族の亡命者を積極的に受け入れ、その中から優れた人材を登用し、漢制を取り入れることで、国家体制の整備を進めました。

この時期、慕容廆は異母兄の慕容吐谷渾を追放し、慕容吐谷渾はチベット高原で吐谷渾を建国しました。慕容部の民は、皮膚が白かったため「白虜」「白賊」とも呼ばれ、晋の士人から好まれたため、多くの女性が婢妾として買われたとされています。

慕容廆の死後、慕容皝が後を継ぎ、337年に燕王を自称し、河北地方を支配下に置きます。その後、前燕、後燕、西燕、南燕と国を建てますが、その中心は華北に移り、制度も魏や晋の体制に倣い、漢化が進みました。

歴代の大人

莫護跋：慕容部の始祖、率義王を拝命
慕容木延：莫護跋の子、左賢王を拝命
慕容渉帰：木延の子、鮮卑単于を拝命
慕容耐（刪）：渉帰の弟
慕容廆：渉帰の次男、嫡子
慕容皝：廆の三男、前燕を建国

慕容部の系図

（系図は省略）

参考文献

白鳥庫吉「東胡民族考」（『史学雑誌』22-1）
田村実造「ボヨウ王国の成立と性格」（『東洋史研究』11-2）
姚薇之『北朝胡姓考』（1958年）

関連項目

五胡十六国時代
鮮卑
吐谷渾
拓跋部
宇文部
段部
高句麗
夫余

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