慕容廆

慕容廆（ぼよう かい）

慕容廆（269年 - 333年）は、鮮卑慕容部の大人（部族長）であり、後の前燕の基礎を築いた人物です。父は慕容渉帰、兄に慕容吐谷渾がいます。彼の治世は、慕容部が遼西・遼東地方で勢力を拡大し、国家体制を整備していく上で重要な時期でした。そのため、実質的な前燕の初代君主に数えられることもあります。

生涯

大人位を継ぐまで

泰始5年（269年）に生まれた慕容廆は、父の死後、叔父の簒奪と暗殺の危機に遭いながらも、部族民に迎えられ、大人位を継承しました。

西晋との関係

当初、慕容部は西晋に従属していましたが、慕容廆の時代には昌黎郡への侵犯を繰り返すなど、関係が悪化しました。宇文部との対立もあり、西晋への宇文部討伐の許可が下りなかったことに怒り、遼西へ侵攻、略奪を行います。その後も昌黎への襲来を繰り返し、西晋の悩みの種となりました。

夫余への攻撃

夫余を攻撃し、都城を陥落させ、夫余王を自害させました。その後も夫余に侵入し、民衆を捕らえて中国に売りさばいたため、西晋朝廷が奴隷を買い戻す事態となりました。

勢力拡大

太康10年（289年）に西晋へ帰順し、鮮卑都督に任じられます。遼東から遼西へ拠点を移し、農業と養蚕に力を入れるとともに、中国の法律や制度を導入し、勢力基盤を固めていきました。西晋が八王の乱で混乱する中、燕の地方で大洪水が発生すると、食糧を支給して幽州の人民を救済、恵帝から称賛されます。

永嘉元年（307年）には鮮卑大単于を自称し、永嘉5年（311年）には西晋が事実上崩壊すると、王浚から官位を受けますが、皇帝の命令でないため拒否。建興年間（313年から317年）に愍帝から鎮軍将軍に任じられ、昌黎・遼東の二国公に封じられます。

周辺諸部族との抗争・修好

西晋に従属後、慕容部の勢力拡大を恐れた宇文部や段部が侵攻を繰り返すようになります。慕容廆は彼らと礼儀正しく交流し、贈り物をするなど関係改善に努めました。

宇文部を撃退したり、拓跋部と修好を深めたりする一方で、遼東の辺境で反乱を起こした素喜連・木丸津を討伐。永嘉7年（313年）には、王浚が段部討伐を目論むと、慕容翰に段部討伐を命じます。

統治体制の確立

西晋崩壊後、中原から多くの民が慕容廆を頼って集まりました。慕容廆は彼らを慰撫し、才能に応じて様々な役職を与え、封奕、裴嶷、游邃、黄泓、宋該、皇甫岌といった人材を登用し、彼らの手腕によって国家を大きく発展させました。

各地から流民が流入したため、彼らを管理するために冀陽郡、成周郡、営丘郡、唐国郡を設置しました。

東晋への従属

建武元年（317年）、司馬睿が晋王を名乗ると、慕容廆は当初これを軽んじましたが、魯昌や高詡の進言により東晋に帰順。司馬睿が皇帝に即位すると、官職を受け、游邃や劉翔に東晋の地方政府としての儀礼や法律を制定させました。裴嶷を長史に任じ、軍務と国政を任せ、遼東・遼西の部族を勢力下に引き入れていきました。

遼東・遼西の覇権国家へ

崔毖が慕容部討伐のため、高句麗・宇文部・段部と連携して侵攻してきますが、慕容廆は持久戦に持ち込み、内部崩壊を待ちます。宇文部を撃破し、崔毖を高句麗へ追放、遼東一帯を自国領に編入し、支配圏を大きく拡大しました。

宋該の提案により、三国連合撃退の戦果を東晋朝廷へ報告。大興3年（320年）には、裴嶷らが建康に到着し、東晋朝廷は慕容廆を平州刺史に任じます。大興4年（321年）には遼東郡公に冊封され、遼東地方における承制の権限を与えられました。また、慕容皝を世子に立て、慕容翰と慕容仁にそれぞれ遼東と平郭を統治させました。

高句麗との抗争、段部との関係強化、宇文部・後趙との抗争などを経て、慕容部は遼西・遼東地方において圧倒的な優位性を確立していきます。

王位要求と最期

咸和6年（331年）、宋該らが王位を求めるよう進言しますが、韓恒に反対されます。慕容廆は東晋の太尉陶侃へ北伐を提案する文書を送ろうとしますが失敗。改めて燕王に封じるよう要求しますが、これも実現しませんでした。

咸和8年（333年）に病没。享年65歳。大将軍・開府儀同三司を追贈され、襄公と諡されました。後に子の慕容皝が燕王に即位すると武宣王と追諡され、孫の慕容儁が帝位に即くと武宣皇帝と追諡され、廟号を高祖とされました。

人物

慕容廆は、体躯が大きく美しい容貌をしており、勇ましい性格で度量が広かったとされています。その政事は公正であり、人材を重んじたため、多くの士民が彼の下に身を寄せ、国家は大いに発展しました。

逸話

幼い頃、張華から「命世の器となるであろう」と評されたり、兄の慕容吐谷渾との別れがあったり、東夷校尉の何龕に謁見した際に服装を改めたり、自らの考えを纏めて「家令」を著したり、高瞻の才能を評価して将軍に任じようとしたりするなど、数々の逸話が残っています。

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