野呂介石

野呂介石：江戸時代後期の文人画家とその生涯

野呂介石（のろ かいせき、1747年-1828年）は、江戸時代後期の紀州藩に仕えた文人画家です。祇園南海、桑山玉洲らと共に紀州三大南画家の一人と数えられ、その独自の画風と多彩な人生で知られています。

幼少期と画の道へ

和歌山城下の町医の家に生まれた介石は、幼少期から儒学を学び、墨竹画などに興味を示しました。しかし、独学では限界を感じ、14歳で京都へ行き、黄檗僧の鶴亭に師事して長崎派の画法を学びました。その後、郷里に戻ったのち再び上京し、21歳で池大雅に入門。南画の技法を徹底的に学びました。

京都と和歌山を行き来しながら、10年以上に渡り山水画の研鑽を積みました。師である池大雅を深く敬愛し、大雅の妻である玉蘭が和歌山を訪れた記録も残っています。28歳で池大雅を失うと、清の画家・伊孚九に師事するなど、研鑽を続けました。木村蒹葭堂や桑山玉洲らとも交流し、画業を深めていきました。34歳で再婚した妻は、17歳年下の士族の出身でした。

紀州藩士としての生涯

介石は、終生を京都で過ごしたいと考えていましたが、46歳で藩命により紀州へ戻り、藩に仕官することとなります。勘定奉行支配小普請として医業に従事し、後に銅山方として領内各地を調査しました。本草学にも精通していたと伝えられています。

江戸には二度訪れ、晩年には大窪詩仏、菊池五山ら江戸詩壇の文人たちと交流しました。頼山陽、頼杏坪、篠崎小竹、田能村竹田、本居大平など、多くの文人達との交友関係も知られています。1810年には、黄公望の「天地石橋図」を臨模したことを喜び、公務で熊野山中に分け入り、数日間に渡り山中の風景に浸り、山水画の画技を深めました。

画風と作品

介石は、自身の楽しみのために絵を描くとし、写意のある絵画を追求しました。墨竹図や山水図を得意とし、特に熊野山中の風景を描いた作品が多く、那智の滝を描いた作品は現在までに十数点確認されています。兄と慕う桑山玉洲とともに南画会の双璧と称され、長町竹石、僧愛石とともに「三石」とも呼ばれていました。

彼の号は、四碧斎（藩侯から賜った一行書「山色四時碧」に由来）、矮梅居（仕官後に住んだ屋敷にあった老梅に由来）、第五隆（後漢の第五倫にちなむ）など、数多く存在します。

晩年と死

82歳で没した介石は、法号を四碧院節翁介石居士としました。和歌山市吹上護念寺に墓碑があります。彼の門弟には、僧愛石、村瀬秋水、呉克明、野際白雪、三宅西浦などがいました。

参考文献

介石の生涯や作品、交友関係を知る上で、様々な文献が役立ちます。『四碧斎画話』（門人が記録したもの）、木村蒹葭堂『蒹葭堂日記』、田能村竹田『竹田荘師友画録』、朝岡興禎『古画備考』、白井華陽『画乗要略』、玉置百齢『三名家略年譜』、木村風乎『介石小談』、横井鐡叟『介石雑話』、そして「紀伊人物誌」『南紀徳川史』など、多くの資料が残されています。これらの文献から、野呂介石という人物像とその時代背景をより深く理解することができます。彼の作品や生涯は、江戸時代後期の文化や社会を知る上で貴重な資料と言えるでしょう。

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