金光弥一兵衛

金光弥一兵衛：寝技の大家、高専柔道の先駆者

金光弥一兵衛（1892年 3月30日 - 1966年 12月25日）は、日本の柔道家であり、講道館柔道9段、大日本武徳会柔道教士という卓越した地位にありました。彼は柔術各派や大日本武徳会で柔道を修練し、明治神宮競技大会柔道競技での優勝という輝かしい実績を持つ一方で、大正時代から昭和初期にかけて旧制第六高等学校（現在の岡山大学）で柔道を指導し、多くの優秀な弟子を育成しました。特に、膝十字固や三角絞といった寝技の技術開発に貢献し、高専柔道の発展に大きく寄与したことで知られています。

経歴

岡山県岡山市出身の金光は、幼少の頃より起倒流と竹内流という二つの柔術流派を学びました。これは、岡山藩が起倒流を、分家の天城池田家が竹内流をそれぞれ公式の柔術として採用し、互いに技術を競い合った歴史的背景によるものです。金光は、起倒流を岸本重太郎から、竹内流を今井行太郎から学び、その基礎を築きました。

岡山中学校（現在の岡山朝日高校）を中退後、東京順天中学校（現在の順天高校）を経て、大日本武徳会武道専門学校の前身である武術教員養成所に入学し、永岡秀一や田畑昇太郎（共に後に講道館10段）といった著名な柔道家から指導を受けました。

1910年9月に講道館に入門した金光は、わずか48日後に初段を許され、翌年には二段、さらに半年後には紅白試合での優れた成績が認められて三段に昇段するという異例のスピードで昇進しました。この昇段スピードは、彼が少年時代から培ってきた柔術の確かな実力を物語っています。

武道専門学校卒業後は、遼東半島に渡り旅順の警察講習所で教務に携わりましたが、その後帰国し、東京の帝国大学農科大学や第一高等学校（いずれも現在の東京大学）で柔道教師を務めました。その後、広島高等師範学校（現在の広島大学）や附属中学、広島広陵中学校、県立商業学校でも柔道師範として教鞭を執りました。この間、1916年1月に四段、1919年5月に五段を講道館から許され、1920年5月には大日本武徳会の柔道教士号を授与されました。

1920年8月には郷里の岡山に戻り、岡山医科大学や旧制第六高校（いずれも現在の岡山大学）、岡山県警察部で後進の指導にあたっていた岡野好太郎が名古屋の旧制第八高校（現在の名古屋大学）に転出した後任として、これらの機関で指導を担当することになりました。

寝技の大家として

当時の講道館柔道では立技が重視される傾向にありましたが、金光は起倒流の流れを汲む寝技を六高柔道部員に徹底的に指導しました。その結果、一宮勝三郎、桜田武、早川勝、山沢準三郎、佐々木吉備三郎といった多くの才能ある選手を育成しました。

旧制第二高校（現在の東北大学）の師範を務め、旧制第一高校との対抗試合で二高を勝利に導いた小田常胤と共に、金光はいつしか寝技において「東の小田、西の金光」と称されるようになりました。

金光が師範に就任して間もない1921年7月の第8回全国高専大会では、7連覇を達成していた旧制第四高校（現在の金沢大学）に対し、金光率いる六高は「美しく勝つ」をモットーに打倒四高を誓い、準決勝で激突しました。この試合は事実上の決勝戦と目され、六高が繰り出した新技である膝十字固（当時は「足の大逆」と呼ばれていました）を発端に、試合は一時中断するなど、大きな波乱がありました。最終的には両校引き分けとなり、漁夫の利を得た旧制五高（現在の熊本大学）が優勝しました。

金光の代名詞とも言える三角絞（当時は「松葉搦み」などと呼ばれていました）や腕挫三角固も、この頃に開発されました。その起源には諸説ありますが、早川勝ら神戸一中の学生と六高の一宮勝三郎が、高橋徳兵衛が用いた「挟み逆」という技をヒントに考案し、金光らが研究・改良を重ねて実戦で使えるレベルに仕上げたというのが定説となっています。

1922年には早川勝が六高に入学し、その直後の第9回全国高専大会で六高は念願の初優勝を飾り、以後1929年の第16回大会まで8連覇を達成し、黄金時代を築きました。

その後

金光は1923年に玄武館中央道場（後の玄友会道場）を設立し、3万人にものぼる門人を育てました。また、1924年の明治神宮競技大会では、壮年組に出場し優勝を果たしました。1940年には紀元二千六百年奉祝天覧武道大会で特選演武を行うという栄誉に浴しました。

戦後は、岡山県警察部や岡山刑務所で指導を行う傍ら、全日本柔道連盟の要職を歴任し、柔道界の発展に尽力しました。しかし、晩年は不遇であり、弟子たちの造反や連盟の処分により、柔道界で孤立してしまいました。1966年に74歳で亡くなりましたが、その功績は讃えられ、勲五等双光旭日章を受章し、没後には銅像とプレートが岡山武道館に建立されました。

柔道評論家のくろだたけしは、「その業績からいって当然10段になるべき人であった」と評し、金光弥一兵衛の柔道界への貢献を高く評価しています。

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