銀貨30枚

銀貨30枚：裏切りの代償、その象徴と意味

銀貨30枚（ぎんか30まい、英語: Thirty pieces of silver）は、新約聖書に登場する象徴的な器物の一つです。マタイによる福音書によれば、イスカリオテのユダがイエス・キリストを裏切った代価として受け取ったとされています。この出来事は、キリスト教の信仰において重要な意味を持ち、様々な解釈や表現がなされてきました。

聖書の物語

マタイによる福音書によると、ユダは最後の晩餐の前に祭司長の元へ赴き、銀貨30枚と引き換えにイエスを引き渡すことを約束しました。ゲッセマネの園でイエスが捕縛される際、ユダは接吻によってイエスを兵士たちに示しました。

イエスの逮捕後、ユダは後悔に苛まれ、祭司長に銀貨を返却しようとしましたが拒否されます。その後、ユダは自殺し、祭司長たちはその金で「陶器師の畑」を購入しました。この畑は、外国人墓地として使用されることになります。

使徒言行録では、ユダの死について異なる記述があります。ペトロは、ユダが不正の報酬で得た土地で悲惨な死を遂げたと述べています。

コインの種類

マタイによる福音書に登場する「銀貨」が具体的にどの種類のコインであったかについては、諸説あります。有力な候補としては、ティルスのシェケル銀貨やアンティオキアのスタテル銀貨が挙げられます。ティルスのシェケル銀貨は、純度が高く、神殿への献金にも用いられていました。

当時の銀の価値から換算すると、銀貨30枚は約185ドルから216ドル程度に相当すると考えられます。これは、熟練労働者の約4ヶ月分の賃金に匹敵する金額です。

神学的解釈

ゼカリヤ書には、ゼカリヤが労働の対価として銀貨30枚を受け取り、それを「陶工に」投げたという記述があります。これは、ゼカリヤの価値が低く見積もられたことを示唆しているとも解釈できます。出エジプト記には、奴隷の値段が銀貨30枚であったという記述もあり、この金額が軽蔑的な意味合いを持つことが分かります。

マタイ福音書では、ユダが返した銀貨で畑が購入されたことが、エレミヤの預言の成就であるとされています。しかし、エレミヤ書には畑の購入に関する記述があるものの、銀貨30枚については触れられていません。このため、マタイがエレミヤの預言を予型論的に解釈したとする説もあります。

芸術における描写

イエス・キリストの受難を描いた絵画では、ユダが銀貨を手にしている姿がよく見られます。銀貨は、ユダを識別するための象徴として用いられています。中世には、実際に使われたとされる古い硬貨が「ユダのペニー」として崇拝され、難産除けのお守りとして用いられることもありました。

文学における比喩的用法

「銀貨30枚」という言葉は、私利私欲のために他人を裏切る行為や、価値を安売りすることを意味する比喩として用いられます。ドストエフスキーの『罪と罰』やシェイクスピアの『ヘンリー四世 第2部』など、多くの文学作品にこの表現が見られます。

現代における用法

現代社会においても、「銀貨30枚」という言葉は、政治家や芸術家が自身の原則を金銭的利益と引き換えに売り渡したと非難する際に用いられます。2009年の気候変動枠組条約締約国会議では、ツバルの代表が最終文書を批判し、「銀貨30枚で国民と未来を裏切るように言われている」と述べました。

銀貨30枚は、聖書の物語から生まれた象徴的なイメージであり、裏切り、後悔、そして贖罪といったテーマを想起させます。この言葉は、現代においても倫理的な判断や社会批判の文脈で用いられ、その意味は時代を超えて受け継がれています。

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