鑿歯

鑿歯（さくし）

鑿歯は、中国に伝わる伝説的な怪物であり、古代中国南方の湿原地域として知られる寿華の野に棲息していたとされています。この怪物は長さが約5、6尺、つまり約150センチから180センチの堂々とした体躯を持ち、まるで鑿（のみ）のように長い牙を有していることが特徴です。

伝説の背景

鑿歯は、寿華の地で住民を次々と襲っていた恐れられる存在でした。しかし、その暴虐は堯の命を受けた英雄、羿によって終わりを迎えます。羿はこの怪物に立ち向かい、決闘を繰り広げたと言われています。『山海経』の海外南経においては、鑿歯が盾と矛を持って戦ったという記述も存在し、彼の武勇を伝える一端を担っています。

鑿歯人

さらに、鑿歯に関連する伝説として、鑿歯人（さくしじん）という独自の人種が存在したとされています。この人々の歯は、鑿のように長いとも言われ、古代の人々に不気味さを印象付けたことでしょう。郭璞による『山海経』の注釈では、寿華の野にこの鑿歯人が生息していたことが記されています。また、『淮南子』にも異国の人物たちに関する記事があり、そこに鑿歯人の名前が登場しますが、具体的な内容は今もなお謎に包まれています。

歴史的文献

鑿歯に関する詳しい情報は、袁珂著、鈴木博訳の『中国の神話伝説』や、山北篤、佐藤俊之がまとめた『悪魔事典』などに記されています。これらの文献は、古代中国の伝説や神話を理解するための重要な資料として広く利用されています。

関連事項

鑿歯にまつわる話は、他の伝説との共通点も見られます。例えば、羿は古代中国の伝説では有名な弓矢の名手として知られており、彼が鑿歯を退治するファンタジーも人々の興味を引いています。また、百越という民族は、江南地方に住んでいたことから鑿歯に関連付けられることがあり、この民族は歯を削って装飾を施す習慣があったことが「鑿歯」という名前の由来ともされています。さらに、習鑿歯という東晋時代の人物も、この伝説の影響を受けている可能性があります。

このように、鑿歯の伝説はただの怪物の物語ではなく、古代中国の文化や人々の思考を反映し、さまざまな形で後世に影響を与え続けています。

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