長宗我部信親

生涯

長宗我部信親は、安土桃山時代に活躍した武将です。土佐の戦国大名、長宗我部元親の嫡男として永禄8年（1565年）に誕生しました。母は元親の正室で、足利義輝の家臣であった石谷光政の娘です。彼女は明智光秀の家臣・斎藤利三の異父妹にあたります。

幼少の頃から聡明であった信親は、父・元親から特別な愛情を受けました。天正3年（1575年）、元親が織田信長と親交を結んだ際、信長を烏帽子親とし、信長から一字を与えられて「信親」と名乗るようになりました。この時、信長から左文字の銘刀と名馬を贈られたと伝えられています。これは、元親の外交手腕と、明智光秀の発信力が大きく影響した結果でした。ただし、近年発見された史料によれば、信親が信長から一字を賜ったのは、天正6年（1578年）の荒木村重の反乱時とする説もあります。

信親はその後、父に従い各地を転戦しました。天正13年（1585年）、長宗我部氏は豊臣秀吉の四国攻めに降伏し、豊臣政権下で土佐一国を領する大名となりました。

戸次川の戦いと最期

天正14年（1586年）、豊後の大友宗麟が豊臣秀吉に島津氏の侵攻を訴え、救援を求めました。これを受け、秀吉は黒田孝高を派遣し、さらに長宗我部元親・信親らに豊後への出陣を命じました。島津家久が豊後に侵入し、大友氏の鶴ヶ城を攻撃する中、12月11日、仙石秀久と長宗我部信親は、これを救援するため戸次川に陣を敷きました。

戦略会議で、仙石秀久は川を渡って攻撃することを主張しましたが、元親は援軍を待つべきだと反対しました。しかし、仙石は聞き入れず、十河存保も仙石に同調したため、信親は出陣を余儀なくされました。信親は、この作戦を「罠に臨む狐のようだ」と批判し、自らの討死を覚悟していたと伝えられています。

12月12日、戦いが始まると、先陣の仙石隊がすぐに敗走しました。長宗我部勢は島津軍と激戦を繰り広げましたが、信親は父・元親と離ればなれになってしまいました。元親はなんとか落ち延びることができましたが、信親は中津留川原で奮戦し、鈴木大膳に討たれてしまいました。享年22歳でした。

信親は、桑名太朗左衛門に退却を勧められましたが、これを拒否し、四尺三寸の大長刀を振るい8人を斬り伏せ、さらに太刀に持ち替えて6人を斬り伏せたと伝えられています。この戦いで、信親に従っていた700人もの兵士が討ち死にしました。また、十河存保も戦死し、鶴ヶ城も落城しました。

戦後、元親は信親の死を深く悲しみ、その遺骸を高野山の奥の院に納めました。後に分骨し、高知市長浜の天甫寺に埋葬しました。

人物・逸話

信親は文武両道に秀で、礼儀正しく、父・元親は信親の将来に大きな期待を寄せていました。また、家臣や土佐の民からの人望も厚かったと言われています。元親は信親のために一流の師を招き、英才教育を施しました。信親を「樊噲にも劣らない」と自慢し、織田信長も信親の噂を聞き、養子に迎えたいと語ったという逸話も残っています。

身長は六尺一寸（約184cm）と大柄で、色白く柔和な顔立ちだったとされ、知勇兼備の武将でした。走り跳びで2間（約4m）を跳び越え、空中で刀を抜くこともできたそうです。『フロイス日本史』によると、キリスト教への入信を考えていたとも伝えられています。

元親は信親の死によって大きな打撃を受け、その後の生活は一変したと言われています。信親の早すぎる死は、長宗我部家の後継者として期待していた元親にとって、計り知れない悲しみでした。信親の戦死は、長宗我部氏の衰退のきっかけともなり、家臣団の再建や後継者争いによって、徐々に弱体化していくことになります。元親の信親への愛情は深く、信親の血筋を絶やさないために、信親の娘を、新たに後継者とした盛親の正室に迎えさせたほどでした。

長宗我部信親