長尾憲長

長尾 憲長とは

長尾憲長（ながお のりなが）は、戦国時代に活躍した武将であり、特に当時の関東地方において大きな影響力を持っていた山内上杉家で、家宰（かさい）という重要な役職を務めた人物です。文亀3年（1503年）、足利長尾氏の当主であった長尾景長の嫡男として生まれました。その名にある「憲」の一字は、当時の山内上杉家当主であった上杉憲房から与えられたものと考えられています。

家宰職への就任と初期の活動

憲長が足利長尾氏の家督を継承し、同時に山内上杉家の家宰という最高位の職に就任したのは、大永4年（1524年）頃のこととされています。家宰は山内上杉家における政務の全てを取り仕切る役職であり、その権力は主君である関東管領に匹敵するほどでした。家督と家宰職を継いで間もない享禄元年（1528年）、父・長尾景長が病によりこの世を去りました。

古河公方の元服に関与

享禄元年（1528年）は、憲長の活動を示す重要な年です。この年、関東の中心的な権力者であった古河公方、足利高基の嫡男である晴氏の元服が執り行われました。憲長は、越後国の戦国大名として知られる長尾為景の協力を得て、時の室町幕府12代将軍・足利義晴から晴氏への偏諱（へんき：主君や将軍などの名前の一字を臣下がもらうこと）の授与を実現するための交渉を主導しました。また、この重要な元服式には、足利長尾氏の当主として参列しました。さらに、式の翌日である同年12月28日には、「但馬守（たじまのかみ）」という受領名（ずりょうめい：朝廷から与えられる官名、当時の武将にとっては権威を示す称号）を与えられました。これは、彼が公的な承認を得た有力な武将であることを示すものです。

白井長尾氏の危機への対応

山内上杉家内部で、大きな動揺を招く出来事が発生しました。同じ山内上杉家の有力な家臣であり、一族でもある白井長尾氏の当主、長尾景誠が暗殺され、その家が断絶するという危機に瀕したのです。この混乱に対し、憲長はこれまで足利長尾氏と対立関係になることもあった総社長尾氏と連携を取り、事態の収拾に乗り出しました。両長尾氏の協力体制のもと、最終的には長尾憲景を白井長尾氏の新たな当主として擁立し、混乱がさらなる内紛へと発展するのを防ぎました。

家宰職の継続と子の代替わり

山内上杉家は、関東管領の座を巡る内紛を経験しました。上杉憲寛に代わって上杉憲政が関東管領に就任するという大きな変化がありましたが、長尾憲長はこうした主君の交代を経ても、引き続き山内上杉家の家宰という要職に留まりました。これは、彼の政治手腕や家宰としての地位が盤石であったことを物語っています。

天文17年（1548年）には、古河公方足利晴氏の嫡男である足利藤氏の元服式が行われました。しかし、この式に参列したのは憲長本人ではなく、彼の子である長尾当長でした。このことから、憲長はこの頃に家宰職を子の当長に譲り、自身は隠居した可能性が高いと指摘されています。

長尾憲長の生涯は、関東における山内上杉家の勢力が衰退しつつあり、また家臣団の間でも様々な問題が起こっていた激動の戦国時代と重なります。彼は家宰として、対外的な交渉や、内部の危機への対処など、多方面にわたる政務を担い、山内上杉家を支え続けた人物であったと言えるでしょう。

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