長尾憲景
戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将、長尾憲景は、上野国（現在の群馬県）の有力な国衆であった白井長尾氏の第8代当主として知られます。居城は白井城（現在の渋川市）で、一時期は八崎城（同）も拠点としました。
彼の出自は、上野の国衆である高津長尾氏第5代、総社長尾氏第8代当主とされる長尾顕景の三男と伝えられています。初めは景房と名乗っていましたが、白井長尾氏の第7代当主・長尾景誠が不慮の死を遂げた後、有力な国衆であった長野業正の仲介によって景誠の養子となり、白井長尾氏の家督を継承しました。この際、主君であった関東管領・上杉憲政から偏諱（諱の一字を賜ること）を受けて、名を憲景と改めたとされています。
白井長尾氏は、関東管領である山内上杉氏の家宰を務めた長尾景仲や景信、そして「長尾景春の乱」で知られる景春らを輩出した家系であり、山内上杉氏の宿老を務める家柄でした。しかし、天文21年（1552年）に上杉憲政が後北条氏の北条氏康に敗れて上野を追われると、憲景もまた情勢の変化に対応し、後北条氏に従ったとみられています。その後、永禄3年（1560年）に憲政を擁した越後の長尾景虎（後の上杉謙信）が関東へ進攻してくると、憲景はこれに呼応しました。この時作成された『関東幕注文』には、白井衆の筆頭として「長尾孫四郎」の名が確認でき、白井長尾氏が上野国衆の中でも依然として高い政治的地位を保っていたことがうかがえます。この関東進攻の最中、憲景は一時的に重篤な病に伏し、謙信による小田原城攻めには嫡男の憲春を名代として送っています。
その後も憲景は上杉氏の関東における活動に従い、武蔵や上野各地で転戦しました。敵対する後北条氏や武田氏との戦いを続け、特に武田氏が吾妻郡（現在の群馬県北西部）へ侵攻した際には、岩下城（現在の東吾妻町）を拠点とする斎藤憲広を支援して抵抗を試みました。しかし、武田氏の攻勢により岩下城や嶽山城（現在の中之条町）といった拠点が次々と攻略され、永禄10年（1567年）3月には武田方の真田幸綱によって居城の白井城まで攻め落とされてしまいます。さらに、それまで上杉方であった厩橋城（現在の前橋市）主の北条高広が後北条氏に寝返って憲景を攻めたため、ついに憲景は上野から追われることとなりました。
白井城を失い上野を追われた憲景は、一時的に常陸国（現在の茨城県）の佐竹義重のもとに身を寄せたとされています。そこで太田資正らと共に小田氏治と戦う傍ら、越後の謙信に対して上野の戦況を報告し、再度の関東出兵を要請しました。その後、憲景は謙信の元へ向かい、再びその麾下に入ったと伝えられています。
永禄12年（1569年）に上杉氏と後北条氏の間で越相同盟が結ばれると、憲景はこれを機に、かつて北条高広に奪われていた旧領の一部返還を受けました。さらに元亀元年（1570年）には、謙信から白井領内の田留城（現在の渋川市あるいは前橋市付近）を与えられます。その後1、2年の間に、白井城奪還を目指すための新たな拠点として八崎城を築きました。
天正6年（1578年）に上杉家で御館の乱が発生し、謙信死後の家督争いが起こると、憲景は由良国繁を通じて後北条氏への従属を選んだとみられます。しかし、この時点ではまだ態度を明確にしていなかったためか、上杉景虎方を支持していた厩橋城の北条高広に居城の八崎城を攻められてしまいます。さらに、武田方の真田昌幸によって、彼の支配下にあった不動山城（現在の渋川市）も攻略されました。その後、憲景は厩橋の北条高広を通じて武田氏に従属する道を選びます。天正8年（1580年）3月には、後北条氏に味方していた女淵城（現在の前橋市）将の猪俣邦憲によって、先に与えられていた田留城を攻められるなど、その立場は依然として不安定でした。しかし、翌年5月（天正9年）には再び後北条氏に従属します。そしてその翌年（天正10年、1582年）3月に武田氏が滅亡すると、憲景は真田昌幸が後北条氏へ従属する際の仲介役を務めたと記録されています。
武田氏滅亡後、上野国には織田信長の家臣である滝川一益が派遣され、憲景も一時的にその指揮下に入ったと考えられています。しかし、天正10年6月の神流川の戦いで後北条氏が滝川一益を破り、再び上野国への影響力を強めると、憲景は後北条氏に従属しました。この頃、憲景はついに念願であった白井城の奪還を果たし、およそ15年ぶりに居城へと帰還しました。また、同年2月には次男の輝景に家督を譲っていたとみられています（時期的に武田氏滅亡後の出来事と考えると整合性に疑問符がつく記述ですが、史料通りに記述します）。後北条氏への従属に際して、三男の鳥房丸（後の長尾景広）を人質として提出しています。その後、翌年正月（天正11年1月）までには中山城（現在の高山村）を攻略するなど戦功を挙げ、北条氏政から沼田領（現在の沼田市周辺）の攻略に励むよう求められています。
長尾憲景の没年は天正12年（1584年）と伝えられています。法名は雲林院殿梁雄玄棟庵主。彼の死後、白井長尾氏は後北条氏の従属国衆として、隣接する吾妻・沼田領を治める真田氏との間で続く争いの最前線に立ち、真田氏攻略の重要な役割を担うことになります。
彼の出自は、上野の国衆である高津長尾氏第5代、総社長尾氏第8代当主とされる長尾顕景の三男と伝えられています。初めは景房と名乗っていましたが、白井長尾氏の第7代当主・長尾景誠が不慮の死を遂げた後、有力な国衆であった長野業正の仲介によって景誠の養子となり、白井長尾氏の家督を継承しました。この際、主君であった関東管領・上杉憲政から偏諱（諱の一字を賜ること）を受けて、名を憲景と改めたとされています。
白井長尾氏は、関東管領である山内上杉氏の家宰を務めた長尾景仲や景信、そして「長尾景春の乱」で知られる景春らを輩出した家系であり、山内上杉氏の宿老を務める家柄でした。しかし、天文21年（1552年）に上杉憲政が後北条氏の北条氏康に敗れて上野を追われると、憲景もまた情勢の変化に対応し、後北条氏に従ったとみられています。その後、永禄3年（1560年）に憲政を擁した越後の長尾景虎（後の上杉謙信）が関東へ進攻してくると、憲景はこれに呼応しました。この時作成された『関東幕注文』には、白井衆の筆頭として「長尾孫四郎」の名が確認でき、白井長尾氏が上野国衆の中でも依然として高い政治的地位を保っていたことがうかがえます。この関東進攻の最中、憲景は一時的に重篤な病に伏し、謙信による小田原城攻めには嫡男の憲春を名代として送っています。
その後も憲景は上杉氏の関東における活動に従い、武蔵や上野各地で転戦しました。敵対する後北条氏や武田氏との戦いを続け、特に武田氏が吾妻郡（現在の群馬県北西部）へ侵攻した際には、岩下城（現在の東吾妻町）を拠点とする斎藤憲広を支援して抵抗を試みました。しかし、武田氏の攻勢により岩下城や嶽山城（現在の中之条町）といった拠点が次々と攻略され、永禄10年（1567年）3月には武田方の真田幸綱によって居城の白井城まで攻め落とされてしまいます。さらに、それまで上杉方であった厩橋城（現在の前橋市）主の北条高広が後北条氏に寝返って憲景を攻めたため、ついに憲景は上野から追われることとなりました。
白井城を失い上野を追われた憲景は、一時的に常陸国（現在の茨城県）の佐竹義重のもとに身を寄せたとされています。そこで太田資正らと共に小田氏治と戦う傍ら、越後の謙信に対して上野の戦況を報告し、再度の関東出兵を要請しました。その後、憲景は謙信の元へ向かい、再びその麾下に入ったと伝えられています。
永禄12年（1569年）に上杉氏と後北条氏の間で越相同盟が結ばれると、憲景はこれを機に、かつて北条高広に奪われていた旧領の一部返還を受けました。さらに元亀元年（1570年）には、謙信から白井領内の田留城（現在の渋川市あるいは前橋市付近）を与えられます。その後1、2年の間に、白井城奪還を目指すための新たな拠点として八崎城を築きました。
天正6年（1578年）に上杉家で御館の乱が発生し、謙信死後の家督争いが起こると、憲景は由良国繁を通じて後北条氏への従属を選んだとみられます。しかし、この時点ではまだ態度を明確にしていなかったためか、上杉景虎方を支持していた厩橋城の北条高広に居城の八崎城を攻められてしまいます。さらに、武田方の真田昌幸によって、彼の支配下にあった不動山城（現在の渋川市）も攻略されました。その後、憲景は厩橋の北条高広を通じて武田氏に従属する道を選びます。天正8年（1580年）3月には、後北条氏に味方していた女淵城（現在の前橋市）将の猪俣邦憲によって、先に与えられていた田留城を攻められるなど、その立場は依然として不安定でした。しかし、翌年5月（天正9年）には再び後北条氏に従属します。そしてその翌年（天正10年、1582年）3月に武田氏が滅亡すると、憲景は真田昌幸が後北条氏へ従属する際の仲介役を務めたと記録されています。
武田氏滅亡後、上野国には織田信長の家臣である滝川一益が派遣され、憲景も一時的にその指揮下に入ったと考えられています。しかし、天正10年6月の神流川の戦いで後北条氏が滝川一益を破り、再び上野国への影響力を強めると、憲景は後北条氏に従属しました。この頃、憲景はついに念願であった白井城の奪還を果たし、およそ15年ぶりに居城へと帰還しました。また、同年2月には次男の輝景に家督を譲っていたとみられています（時期的に武田氏滅亡後の出来事と考えると整合性に疑問符がつく記述ですが、史料通りに記述します）。後北条氏への従属に際して、三男の鳥房丸（後の長尾景広）を人質として提出しています。その後、翌年正月（天正11年1月）までには中山城（現在の高山村）を攻略するなど戦功を挙げ、北条氏政から沼田領（現在の沼田市周辺）の攻略に励むよう求められています。
長尾憲景の没年は天正12年（1584年）と伝えられています。法名は雲林院殿梁雄玄棟庵主。彼の死後、白井長尾氏は後北条氏の従属国衆として、隣接する吾妻・沼田領を治める真田氏との間で続く争いの最前線に立ち、真田氏攻略の重要な役割を担うことになります。
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