長浜豊彦

長浜豊彦：硫黄島の「天皇さん」

長浜豊彦（1896年 - 1984年）は、第二次世界大戦後、鹿児島県三島村硫黄島（鬼界ヶ島）において、安徳天皇の末裔を自称し、「長浜天皇」として知られるようになった人物です。島民からは敬愛を込めて「天皇さん」と呼ばれていました。

主張の概要

長浜は、自らが安徳天皇から数えて34代目の末裔であると主張しました。壇ノ浦の戦いで入水したとされる安徳天皇は、実は生き延びて硫黄島に辿り着いたという伝説を背景にしています。伝説によれば、安徳天皇は平資盛らと共に海路をたどり、伊予国を経て日向国、大隅半島へと渡り、肝属平野を越えて1187年頃に硫黄島に上陸したとされています。

硫黄島で安徳天皇は、櫛匣局（穴御前）を娶り、隆盛親王という子をもうけました。この隆盛親王が、長浜天皇の祖先であるとされています。

来歴

1950年頃から、安徳天皇の末裔を称する長浜はマスコミの注目を集めるようになりました。小学校卒業後、海軍志願兵として三等兵曹まで進み、退官後は島の熊野神社の神主として、安徳天皇を祀りました。椿山から取れる油と一本釣り漁の半農半漁、そして軍の恩給で生計を立て、島の選挙管理委員会委員長も務めていたといいます。

長浜は、他の自称天皇とは異なり、三浦天皇のように天皇としての威厳を演じることも、熊沢天皇のように現天皇への対抗意識を示すこともありませんでした。取材したマスコミ記者の印象も良く、好々爺然とした人物であったと伝えられています。島の名士として尊敬を集め、「天皇」という呼称も、島民が敬愛を込めて呼んだものでした。

「開けずの箱」の謎

長浜家には「開けずの箱」という家宝がありました。幕末の頃、島津斉興（または島津重豪の特使）が来島し、「神器であるから、絶対に開けてはならない。もし開ければ神罰が下り、両目を失明する」と言い残して去ったとされています。1930年頃、平家研究家が訪問した際、「失明しても良いから中身を見せて欲しい」と懇願され、ついに箱が開けられました。中からは「貴重な品をここの宮に置いておくのは危険だから、預かっておく」という封書と島津氏の花押が書かれたものが出てきたといいます。この一件以来、長浜家は島津氏（薩摩興業）に対し「家宝を返せ」と主張し、一方の島津氏は「言いがかりだ」と反論し、両者の間に不和が生じることとなりました。

近年、鈴木彰の研究により、島津斉興の自筆による『虎巻根本諸作法最口伝規則』という文書の中に、文政10年（1827年）に硫黄島で八咫鏡が発見されたという記述があることが確認されました。このことから、「開けずの箱」の開封が実際に起こった出来事であった可能性が高まっています。

この他にも、長浜家には武具など、安徳天皇伝来と思われる品々が多数存在するといわれています。

硫黄島の伝承

島の伝説では、安徳天皇は寛元元年（1243年）にこの地で崩御したとされています。島外の文献でも、『薩摩国硫黄島三州大権現宮鎮座本記』や『鹿児島外記』、『肝属郡高山町四十九所神社記』などに安徳天皇の硫黄島漂着の記述が見られます。長浜家は、安徳天皇の黒木の御所の跡地であると伝えられています。また、長浜家の背後にある御前山と呼ばれる丘陵地には「平家一門墓」といわれる中世墓地の遺跡があり、その中にある五輪塔の空風輪の残欠が安徳天皇陵であるとされています。戦後、鹿児島県文化財保護委員会が調査に訪れましたが、「貴重なものだが、御陵と断定はできない」との見解を示したとされています。

長浜豊彦は、硫黄島の伝説と人々の敬愛に支えられ、「長浜天皇」としてその生涯を終えました。

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