長田秋濤

長田秋濤（おさだ しゅうとう）：波瀾万丈の生涯を送った劇作家・仏文学者

長田秋濤（1871年11月17日 - 1915年12月25日）は、明治時代から大正時代にかけて活躍した劇作家、仏文学者、翻訳家です。本名を長田忠一といい、酔掃堂という別号も用いました。

生い立ちと海外遊学

長田秋濤は、静岡県静岡市で外交官の父、長田銈太郎の長男として生まれました。幼少期から父親の海外赴任に同行し、フランスなどで過ごしました。学習院中等科を中退後、第二高等学校に進学。しかし、1889年に父親が急逝するという不幸に見舞われます。

1890年にはイギリスのケンブリッジ大学に入学し、法律と政治を学びますが、人種差別的な扱いに憤慨し、フランスへ渡りソルボンヌ大学で法律を学ぶことになります。この留学は、外務省からの留学という形で行われました。フランスでは演劇にも興味を持ち、帰国後の1893年には『早稲田文学』でフランス演劇の紹介や演劇改革を主張しました。

結婚と政界・財界との関わり

帰国後、長田秋濤は岐阜県知事の娘である小崎仲子と結婚。下田歌子が媒酌人を務めました。伊藤博文に気に入られ、政界や財界との繋がりを深めていきます。1895年には初代台湾総督となった樺山資紀に随行し、1896年には伊藤博文の推薦で帝国ホテルの支配人に就任。1897年には、イギリスのヴィクトリア女王即位六十年祭に伊藤博文の秘書として再びヨーロッパへ渡りました。

文学活動とスパイ疑惑

帰国後、長田秋濤は文学に親しみ、硯友社の一派と交流を深めます。川上音二郎らと共に演劇改良運動に尽力し、1903年には翻案戯曲小説『椿姫』を刊行し、これにより名声を得ました。尾崎紅葉とも親交がありましたが、自然主義文学の台頭とともに文壇から距離を置くようになります。

1903年8月、日本電報通信社の権藤震二によって、ロシアのスパイであるという嫌疑をかけられ、名誉棄損で訴訟を起こしましたが、敗訴してしまいます。同時期には、紅葉館の芸妓であったお絹を身請けし、妻妾同居生活を送ります。お絹は踊り手として川上音二郎一座に参加しましたが、巡業中に病に倒れ、1906年に亡くなりました。その後、東京から大阪へ移り、川上一座の座付き作者を務める傍ら、大阪日報の社長である吉弘白眼の入獄中には、同紙の主筆として新聞を預かりました。

南方でのゴム園経営と晩年

1909年、長田秋濤は大倉信太郎が出資するゴム園経営のためシンガポールへ渡り、現地の日本人会を結成し、会長に就任します。1911年には、イギリスのジョージ五世の戴冠式に出席するためイギリスへ向かう途中にシンガポールに立ち寄った東伏見宮、東郷平八郎、乃木希典に拝謁を希望しましたが、過去のロシアスパイ疑惑が原因で実現しませんでした。1912年に大倉信太郎が死去したことにより、ゴム園は新たな組織となり、長田秋濤は同社の相談役を退任。晩年は、韓国人が建てた神戸市垂水区の屋敷を借りて暮らしました。

死後

1915年12月25日、長田秋濤は死去しました。1917年には、南洋開発に関する著書『図南録』が出版されました。この本は、長田秋濤が口述したものを妻が書き記したものです。跡継ぎとなった末弟の長田戒三によって三回忌が執り行われ、和田垣謙三、秋山定輔、小川平吉、岡田朝太郎、黒田清輝らが追悼会に参列しました。

長田秋濤の死後、秋濤会が結成され、1937年には小冊子『長田秋濤居士』が刊行されました。同書では、長田秋濤のロシアスパイ事件は、彼を庇護していた伊藤博文と対立していた桂太郎首相による策略であったと推測されています。

長田秋濤は、長い間忘れられた文学者でしたが、1967年に中村光夫が小説『贋の偶像』で彼を扱い、第20回野間文芸賞を受賞したことで、再び注目を集めるようになりました。

主要な著書

仏蘭西名作梗概
当世二人女婿
菊水
王冠
椿姫
図南録

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