阿史那社爾

阿史那社爾（あしな しゃじ）

阿史那社爾は、生年不詳ながら655年に没した、突厥の首長であり、後に唐に帰順して軍人として活躍した人物です。彼の生涯は、激動の7世紀のユーラシア大陸を舞台に、その勇猛果敢な戦いぶりと、清廉潔白な人となりで名を残しました。

生涯

阿史那社爾は、突厥の処羅可汗の次男として生まれました。幼い頃からその知勇は際立っており、11歳にして拓設に任じられ、ゴビ砂漠の北に自身の勢力圏を確立しました。彼は、頡利可汗の子である欲谷設と共に、鉄勒、ウイグル、僕骨、同羅といった諸部族を統括しました。その統治は10年に及びましたが、苛斂誅求を行うことなく、私腹を肥やすこともしませんでした。彼は常に「部族が豊かになれば、それで満足だ」と語っていたと言われています。しかし、頡利可汗が頻繁に軍事行動を起こすことに対しては、しばしば諫言しましたが、聞き入れられることはありませんでした。

626年、鉄勒、ウイグル、薛延陀などが突厥に反乱を起こし、欲谷設が馬猟山で破れると、社爾は救援に向かおうとしましたが、薛延陀に敗北を喫しました。628年には、残党を率いて西方へ向かい、可汗浮図城に駐屯しました。630年に頡利可汗が滅亡し、西突厥の統葉護可汗も死去すると、後継を巡って奚利邲咄陸可汗と泥孰可汗の兄弟が争いを始めました。社爾は兵を率いてこれを襲撃し、西突厥の半分の領土を奪い、部衆は10万を超えるまでに膨れ上がりました。彼は都布可汗を自称し、精鋭騎兵5万を選抜して、薛延陀への復讐戦を挑みましたが、100日余りで兵士たちの間に厭戦気分が広がり、脱走者が続出しました。そこへ薛延陀の襲撃を受け大敗し、わずか1万ほどの兵を率いて高昌へ逃れました。西突厥も安定せず、635年に部衆を率いて唐に降伏しました。

唐への帰順後

636年、阿史那社爾は長安に入朝し、左驍衛大将軍に任じられました。彼の部衆は霊州の北に配置され、社爾自身は長安に留め置かれました。衡陽長公主を妻に迎え、駙馬都尉となり、禁苑内の兵を統括する役目を担いました。640年には、交河道行軍総管として高昌攻略に参加しました。諸将が褒賞を受け取る中、社爾は勅命を受けていないことを理由に受け取ろうとせず、改めて勅命を受けてから受け取りました。太宗は社爾の清廉さを称賛し、高昌の宝刀や綾絹を贈り、北門左屯営を検校させ、畢国公に封じました。645年の高句麗遠征にも参加し、流れ矢を受けながらも、矢を抜いて再び戦い、多大な功績を挙げました。凱旋後には、鴻臚卿を兼任しました。

647年、崑丘道行軍大総管となり、亀茲を征討しました。648年には、西突厥の領内に入り、処蜜・処月を攻撃して打ち破りました。焉耆方面から亀茲領内へ侵攻し、不意を突かれた亀茲の人々は驚愕しました。磧石に駐屯し、伊州刺史の韓威を先鋒、右驍衛将軍の曹継叔を後詰めとしました。多褐城に到達すると、亀茲王の白訶黎布失畢が5万の兵を率いて迎え撃ちましたが、韓威と曹継叔の奮戦により亀茲軍は打ち破られました。社爾は亀茲の都城を攻略し、亀茲王は軽騎で逃亡しました。郭孝恪に都城の守備を任せ、自らは精鋭騎兵を率いて追撃し、大撥換城で亀茲王とその大臣那利らを捕らえ、亀茲の五大城を制圧しました。左衛郎将の権祗甫を派遣して諸首長に利害を説かせ、70余りの城を降伏させました。石に功績を刻んで凱旋しました。郭孝恪は戦利品の金玉で身を飾り、社爾にも贈りましたが、社爾は受け取りませんでした。太宗はこれを聞き、「二将の優劣は人に問うまでもない」と語ったと伝えられています。

太宗が崩御すると、社爾は殉死を願い出ましたが、高宗はこれを許しませんでした。その後、右衛大将軍に転じましたが、655年に亡くなりました。輔国大将軍・并州都督の位を追贈され、昭陵に陪葬されました。墓は葱山を模して築かれ、元と諡されました。

子には阿史那道真がおり、左屯衛大将軍に上りました。

人物評

阿史那社爾は、その軍事的な才能だけでなく、清廉潔白な人柄で多くの人々に慕われました。また、故郷である突厥への複雑な思いを抱えながらも、唐への忠誠を尽くした人物として、歴史に名を刻んでいます。

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