阿弥 (法号)

阿弥とは

阿弥とは、時宗の開祖である一遍が広めた阿弥陀仏の教えを信仰する男性信徒が授かる法名、「阿弥陀仏号」の略称です。この法名は、浄土教が広まった平安時代後期から使われ始めましたが、鎌倉時代に入ると、時宗の信徒である時衆が特に用いるようになりました。時衆は、阿弥号を男性が、一房号または仏房号を女性がそれぞれ称しました。

宗教者としての阿弥

一遍は、自らの遊行に同行する人々を時衆と呼び、男性には阿弥の法名を授けました。時衆は、一遍と共に遊行する少数の「道時衆」と、在俗のまま修行する大多数の「俗時衆」に分かれました。また、喜捨を通じて縁を結んだ結縁衆も存在しました。一遍は寺院を持たなかったため、時衆は世俗での生活を重視しながら修行する特徴を持ちました。

鎌倉・南北朝期の阿弥

一遍が熊野本宮大社などの神社で念仏を説いたことから、武士の間で時衆となる者が増えました。当時の鎌倉幕府が神道を重視していたため、武士たちは他の念仏宗派よりも時宗を受け入れやすかったのです。また、一遍は合掌よりも名号を優先したため、戦場で合掌できない武士にとって受け入れやすかったと考えられます。さらに、戦場に同行して戦死者の菩提を弔う「従軍時衆」も登場し、武士にとって欠かせない存在となりました。合戦日記『楠木合戦注文』には、楠木正成軍を攻めた際に200人の時衆が従軍したと記されています。

しかし、平和な時代には、従軍時衆が文芸や芸能を求められるようになり、「道々の上手共」と呼ばれる人々が現れました。例えば、『大塔軍記』には、小笠原長秀の軍に連歌、早歌、舞に優れた頓阿弥という遁世者がいたと記されています。

芸術家としての阿弥

室町時代には、観阿弥、世阿弥、能阿弥、芸阿弥、立阿弥など、多くの文化人が阿弥号を称するようになりました。彼らは、将軍に近侍する同朋衆として、唐物の目利き、座敷飾り、立花、茶の湯など、武家文化を特徴づける役割を果たしました。特に、足利義政に仕えた能阿弥、芸阿弥、相阿弥の三阿弥は、唐物奉行として、唐絵や唐物の評価、保管を行い、座敷飾りを通して床の間という文化を現在に伝えました。彼らは絵画や連歌にも優れ、「数寄の宗匠」と称されるほどでした。

室町前期（北山）の阿弥

室町前期には、足利義満の寵愛を受けた観阿弥、世阿弥が登場しました。彼らは連歌や茶、花、猿楽などの文化活動に携わり、室町文化の発展に大きく貢献しました。

室町後期（東山）の阿弥

足利義政の時代には、殿中雑務に携わる同朋衆が増えました。その代表が能阿弥、芸阿弥、相阿弥の三阿弥です。彼らは、唐物奉行として、唐物の目利きや座敷飾りを担い、室町文化の隆盛に貢献しました。

安土・桃山、江戸期の阿弥

織田信長や豊臣秀吉にも同朋衆がいましたが、室町時代ほどの活躍は見られませんでした。江戸幕府にも同朋衆は存在しましたが、その役割は縮小していきました。

阿弥の衣服

時衆は、植物繊維を編んだ編布で作られた「阿弥衣」を着用しました。これは、一遍が修行中に藤の編布を着用したことが起源とされています。編布は、中世には最下層の人々の衣服でしたが、一遍はそれをあえて用いることで、当時の仏教界に対する批判を表現しました。

主な阿弥（阿見）

観阿弥 - 田楽、観世流の創始者。
世阿弥 - 田楽、観世流の創始者の一人。
音阿弥 - 田楽、観世流の役者。
増阿弥 - 田楽能の名手。
能阿弥 - 東山御物を選定した足利義政の芸術家。
芸阿弥 - 能阿弥の子で、連歌や水墨画に優れる。
相阿弥 - 能阿弥の孫で、唐物奉行。
善阿弥 - 足利義政に仕えた作庭家。
立阿弥 - 立花に携わった同朋衆。
千阿弥 - 茶の湯に携わった同朋衆。
* 本阿弥光悦 - 書家、陶芸家、漆芸家、出版者、茶人。

これらの阿弥たちは、それぞれの分野で才能を発揮し、日本の文化や芸術の発展に大きく貢献しました。

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