阿蘇合戦

阿蘇合戦：肥後を舞台にした島津氏と阿蘇氏の激闘

阿蘇合戦は、天正12年（1584年）から天正13年（1585年）にかけて、肥後国（現在の熊本県）で繰り広げられた島津氏と阿蘇氏の戦いです。この戦いは、阿蘇氏の当主の相次ぐ死という不幸な出来事から始まり、肥後における主導権を巡る両者の激しい攻防へと発展しました。

阿蘇氏の凋落と島津氏の台頭

阿蘇氏は、肥後の阿蘇郡を支配する大宮司であり、神主大名として知られていました。戦国時代には、大友氏や菊池氏など周辺諸国の干渉を受けながらも、その都度、時勢を見極めて巧みに離合集散を繰り返し、独立を維持してきました。しかし、天正6年（1578年）の耳川の戦いで大友氏が島津氏に大敗すると、肥後における島津氏の勢力が拡大し、阿蘇氏の立場は不安定なものとなっていきます。

島津氏は、名和氏、城氏、天草五人衆らを従属させ、大友氏に同調していた阿蘇氏との対立を深めていきました。天正8年（1580年）には、島津氏は阿蘇氏の家臣である中村惟冬が守る矢崎城と、その弟である中村二大夫が守る綱田城を攻撃し、中村惟冬は討ち死に、中村二大夫は降伏しました。さらに、天正9年（1581年）には、島津氏に従属した相良氏の軍勢が、阿蘇氏の重臣である甲斐親直が守る御船城を攻撃しましたが、甲斐親直の奇襲により相良義陽が討ち死にするなど、島津軍は大損害を被りました。しかし、この戦いを境に、肥後における島津氏の影響力はますます増大し、阿蘇氏は龍造寺氏に従属することで、島津氏に対抗しようとしました。

ところが、天正11年（1583年）に阿蘇惟将が死去すると、その跡を継いだ弟の阿蘇惟種もわずか1ヶ月で病死してしまいます。これにより、わずか2歳という幼さの阿蘇惟光が当主となり、甲斐親直がこれを補佐する体制となりました。しかし、天正12年（1584年）には、沖田畷の戦いで龍造寺隆信が戦死し、龍造寺氏が島津氏に屈服したことで、阿蘇氏は孤立を深めていきます。さらに、同年9月には、甲斐親直も死去したため（異説あり）、阿蘇氏は完全に防戦一方となり、10月には島津軍による本格的な侵攻が開始されることになりました。

阿蘇氏の抵抗と滅亡

島津軍は、新納忠元や稲富新助を大将に任じ、まず御船城を攻めました。御船城は堅城とは言えませんでしたが、甲斐親直の子である甲斐親英の奮戦により、島津軍は攻略を断念し、阿蘇氏の本拠である岩尾城へと矛先を向けました。しかし、幼少の当主では対抗できるはずもなく、阿蘇惟光は家臣に連れられて脱出し、阿蘇氏は滅亡しました。しかし、阿蘇氏の旧臣たちは、なおも島津軍の侵攻に抵抗を続けます。

岩尾城の北東に位置する南郷城では、長野惟久が徹底抗戦し玉砕しました。長野惟久は阿蘇氏の重鎮であり、南郷城はかつて阿蘇氏が居城としていた場所でもあったため、周辺の諸城は動揺し、次々と島津軍の侵攻により陥落していきました。長野城の東南に位置する高森城では、阿蘇氏の重臣である高森惟直が島津軍の調略を拒絶し、寡兵ながらも城外決戦を挑み討ち死にしました。しかし、その子である高森惟居は、父の死を知ると島津軍に降伏したと見せかけ、密かに大友氏に援軍を要請し、高森城で休息していた島津軍を奇襲し全滅させることに成功しました。この奇襲により、島津軍は御船城攻略を放棄し、花の山城へと撤退しました。

天正13年（1585年）8月10日には、甲斐親英が阿蘇氏の旧臣を糾合し、花の山城を攻め落とし、島津軍の諸将や相良氏の救援軍を討ち取りました。

島津氏の反攻と阿蘇氏の再起不能

島津・相良連合軍は、態勢を立て直し、島津義弘を総大将とした主力部隊を、8月13日に阿蘇領に侵攻させました。この島津・相良連合軍の前に、堅志田城、花の山城、御船城は次々と陥落し、甲斐親英は降伏しました。さらに、赤井城、木山城、津森城、今石城、竹迫城といった周辺の城も次々と陥落していきました。前年の戦いで高森惟居が奪回していた岩尾・長野・南郷・下田の諸城も、島津軍の侵攻を恐れて開城を余儀なくされました。

高森惟居は再起を図るため豊後へと向かう途中、家臣の裏切りにより島津勢の追撃を受け討ち死にしました。高森城の落城により、島津氏による肥後平定は完了し、阿蘇氏は完全に滅亡することになりました。

阿蘇合戦は、肥後国における戦国時代の終焉を告げる戦いであり、島津氏が九州統一へと大きく歩を進める上で重要な戦いとなりました。

もう一度検索