阿部九洲男

阿部九洲男：日本の剣戟映画を彩った名優

阿部九洲男は、日本の映画史に燦然と輝く剣戟俳優である。1910年、神奈川県横浜市に伊東石太郎として生まれた彼は、19歳で映画界に足を踏み入れる。当初は「春見堅太郎」という芸名で活動し、古海卓二監督の紹介で京都の市川右太衛門プロダクションに入社した。『髪』でのデビュー以降、市川右太衛門に師事しながら、持ち前の演技力で着実にキャリアを積んでいった。

その後、東京の河合映画製作社を経て、京都の東活映画社に移籍。ここで「阿部九洲男」に改名し、金田繁監督の『閃影双刃録』や古海卓二監督の『評判影法師』といった作品に出演、人気を獲得した。東活時代には、共演者であった女優の木下双葉と結婚。剣戟俳優として頭角を現し、東活、そしてその後移籍した宝塚キネマを代表する存在となった。

宝塚キネマでは賃金未払いをきっかけに、1933年、妻の木下双葉と共に退社。再び東京に戻り、河合映画の後身である大都映画へ入社した。大都映画では、市川右太衛門を思わせる派手な演技で高い評価を受け、海江田譲二、桂章太郎らと肩を並べる人気俳優となった。杉山昌三九と共に大都映画を牽引する存在であった。

しかし、1938年、妻の木下双葉を病気で亡くす悲劇に見舞われる。その後、大都映画の女優で9歳年下の東龍子と再婚した。第二次世界大戦が始まると、1942年、戦時統制により大都映画は日活と合併、大日本映画製作（後の大映）となった。大都映画での最後の出演作品は佐伯幸三監督の『決戦般若坂』であった。その後も大映で活躍を続け、戦後は大映京都撮影所を中心に活動。丸根賛太郎監督の『狐の呉れた赤ん坊』などに出演した。

1950年代には、宝プロダクションの加藤泰監督作品や、新東宝、東映京都撮影所の作品にも多数出演。黒澤明監督の『生きる』、稲垣浩監督の『宮本武蔵』など、名だたる監督の作品にも参加し、幅広い演技力で観客を魅了した。晩年にはテレビドラマにも出演するなど、精力的に活動を続けた。

阿部九洲男は、1965年11月2日、55歳でこの世を去った。没後も彼の作品は公開され続け、300本近い映画出演という、輝かしい功績は日本の映画史に深く刻み込まれている。京都市東山区の高台寺に眠る彼の墓は、多くの映画ファンにとって聖地となっている。数々の時代劇で活躍した彼の存在は、日本の剣戟映画史において、永遠に語り継がれるであろう。

主要出演作品

『髪』(1929年)
『清水の小政』(1931年)
『評判影法師』(1931年)
『決戦荒神山』(1932年)
『風流やくざ節』(1933年)
『水戸浪士』(1937年)
『決戦般若坂』(1942年)
『維新の曲』(1942年)
『狐の呉れた赤ん坊』(1945年)
『剣難女難』(1951年)
『生きる』(1952年)
『宮本武蔵』(1954年、1961年、1962年、1963年)
『忠臣蔵』(1959年)
『水戸黄門 天下の副将軍』(1959年)
『赤穂浪士』(1961年)
『十三人の刺客』(1963年)
『武士道残酷物語』(1963年)
『日本侠客伝 血斗神田祭り』(1966年)
『沓掛時次郎 遊侠一匹』(1966年)
『素浪人 月影兵庫』(1967年、テレビ映画)

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