阿部桂一

阿部 桂一（あべ けいいち）

1923年11月11日、宮城県に生まれる。脚本家として多岐にわたる分野で活躍し、1991年8月15日に肝不全のため67歳で死去した。新井 啓（あらい けい）という別名も用いた。日本シナリオ作家協会、日本放送作家協会、日本脚本家連盟に所属し、没後には日本シナリオ作家協会功労賞が贈られた。

キャリアの始まりと五社英雄との協働

阿部桂一のキャリアは、1958年に日本シナリオ作家協会が主催する第8回シナリオ・コンクールで最優秀賞を受賞したことから本格的に始まった。この受賞作『戦争』は同協会の機関誌『シナリオ』に掲載され、脚本家としての第一歩を踏み出した。同年には日活や新東宝の映画脚本も手がけている。

彼の名を広く知らしめたのは、フジテレビの五社英雄が手がけたテレビ映画への参加である。特に『刑事』や『トップ屋』でその手腕を発揮し、後の『三匹の侍』（第1シリーズ）では主要な脚本家の一人として成功に貢献した。この番組は後に松竹によって劇場用映画化され、その脚本にも柴英三郎、五社英雄とともに名を連ねている。日活の鈴木清順監督作『花と怒濤』も、阿部が脚本に参加した代表的な劇場用映画として挙げられる。

多彩なジャンルでの活躍

1960年代に入ると、阿部は多忙を極める売れっ子脚本家となった。NHK、東映テレビプロダクション、日活、大映など、様々なテレビ局や映画会社の作品に携わるようになる。サスペンス、時代劇、刑事ドラマといったジャンルを中心に多くの脚本を執筆した。

アニメーションの世界にも進出し、虫プロダクション制作の『わんぱく探偵団』や『佐武と市捕物控』に参加。また、渡辺護監督の回想によれば、この時期には「新井啓」の変名で成人映画（ピンク映画）の脚本も手がけていたという。売れっ子脚本家でありながら、多様な分野で活動していたことがうかがえる。

円谷プロダクション作品での功績

特筆すべきは、円谷プロダクションとの協業である。1974年の『SFドラマ 猿の軍団』では第1話を含む多数のエピソードを執筆し、シリーズの基礎を築いた。続く『恐竜探険隊ボーンフリー』では第1話から連続して脚本を担当するなど、同社作品のメインライターとして多くの作品を支えた。『プロレスの星 アステカイザー』、『恐竜大戦争アイゼンボーグ』、『スターウルフ』、『恐竜戦隊コセイドン』、『ザ☆ウルトラマン』（第1話）、『ぼくら野球探偵団』など、1970年代後半から1980年代初頭にかけて、円谷作品の多くで重要な役割を果たした。

晩年と没後の評価

私生活では、長男が深刻な負傷を負ったという不幸に見舞われ、一時期、創作活動に影響が出たことが伝えられている。1977年の成人映画『猟奇薔薇奴隷』の脚本が不調だったのは、この出来事によるものとも言われる。しかし、その後も活動は続け、晩年は向井寛が関わる作品を中心に執筆していた。

1991年に死去。その功績に対し、翌1992年には日本シナリオ作家協会の功労賞が贈られた。近年、ラピュタ阿佐ヶ谷などの企画上映において、彼が脚本を手がけた作品が改めて紹介される機会が増え、再評価の動きも見られる。テレビドラマ、映画、アニメ、特撮、さらには成人映画まで、ジャンルを超えて膨大な作品を世に送り出した阿部桂一は、日本の映像史において重要な足跡を残した脚本家である。

主な作品（抜粋）

テレビドラマ：『刑事』『トップ屋』『三匹の侍』『乗っていたのは二十七人』『ある勇気の記録』など多数
テレビアニメ：『わんぱく探偵団』『佐武と市捕物控』『ハックルベリィの冒険』『ザ☆ウルトラマン』など
特撮：『SFドラマ 猿の軍団』『恐竜探険隊ボーンフリー』『恐竜大戦争アイゼンボーグ』など円谷作品多数
劇場用映画：『夜は俺のものだ』『闇に光る眼』『犯罪6号地』『花と怒濤』『三匹の侍』『四畳半色の濡衣』など
* 成人映画（新井啓名義）：『観音開き 悪道女』『濡れ弁天御開帳』『好色女体地獄』『猟奇薔薇奴隷』など

※フィルモグラフィ、ビブリオグラフィは多岐にわたるため、上記は代表的な作品の一部抜粋です。

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