阿部櫟斎

阿部 櫟斎（あべ れきさい）

阿部櫟斎は、江戸時代後期から幕末にかけて活動した医師であり、本草学者です。彼は1805年に江戸で生まれ、父は本草学者の阿部賢任でした。櫟斎は、曽祖父である阿部将翁の遺志を継ぐべく、本草学の研究に取り組むことを決意しました。初めは谷村元珉を通じて入門し、その後又玄堂の岩崎灌園に師事しながら多くの門人とともに学びました。

彼の経歴は、文政の時代から始まり、天保年間には、福井春水や柳川重信らと文化人の交流の場に参加しました。特に天保8年には、自宅で毎月物産会を開催し、小笠原諸島の植物調査を企画しました。これは、幕府の許可を経て実現するはずでしたが、密航計画が露見した結果、仲間が逮捕される事態に発展しました。

その後、櫟斎は100日間の監禁を受けつつも、蛮社の獄においてさらなる思索を深め、医師としての技術を磨きました。駒場薬園では臨時職を持ち、その後は開成所で物産学についての指導にも携わります。

文久2年、彼は幕府の小笠原諸島調査団に医師として参加し、朝陽丸に乗って浦賀を経由し八丈島へ向かいました。島に到着した後は、草木の栽培や、織物、食塩の試作を行いながら、英語も学びました。しかし、その活動は生麦事件による対英関係の緊張から中止せざるをえませんでした。

櫟斎の後半生では、明治維新後に駒場薬園や小石川薬園において業務を行いながら、多くの著作を残しました。特に彼の著作には、『将翁軒禽譜』や『巴豆考』、『格物瑣言』などがあります。これらの著作は、彼自身の本草学に対する情熱や、植物への深い理解を示しています。

彼はまた、日記『公私日録』も残しており、彼の日々の生活や考えが垣間見える貴重な文書となっています。

最後に、彼は1870年に亡くなり、菩提寺に埋葬されました。法号は「宝珠院殿義簪華将翁居士」と名付けられています。阿部櫟斎の業績は、江戸時代の本草学と医学の発展に大きく寄与したと言えるでしょう。彼の人生や著作を通じて、当時の日本の植物学や医療に関する状況を知ることができます。

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