物産学

物産学の概要

物産学（ぶっさんがく）は、江戸時代後期に本草学から派生した日本の学問であり、有用な産物に焦点を当てています。この分野は、農作物や動植物、さらには鉱物や人工物に関する研究を含み、その特徴は博物学に非常に近いとされています。物産学は時折、「物産」や「産物之学」とも呼ばれ、地域特有の産物を体系的に整理することに力を入れています。

物産学の起源

物産学の根底には本草学があります。於白井光太郎の見解によると、西洋における博物学と重なる形で、東洋でも本草学、名物学、物産学が共存していました。具体的には、本草学は医薬品の材料となる産物の研究を行っており、江戸時代後期にその知識が深まり、医薬の範疇を超えた有用な産物の研究が始まりました。この流れの中で物産学が形成されたのです。

物産学は、本草学の知識に加え、各産物の用途、産地、生産方法（飼育や栽培方法）など、実用的な情報を組み合わせて発展しました。そのため、地誌学や商品学、農学、園芸学といった他の学問分野とも密接に関連しています。

物産学の著作と学者たち

物産学に関する書籍はいくつか存在しており、例えば貝原益軒による『筑前国続風土記』に収録された『筑前土産考』や、平賀源内の『物類品隲』が挙げられます。また、稲生若水と丹羽正伯が共著した『庶物類纂』、小野蘭山の『本草綱目啓蒙』、曽占春の『海内方物紀略』といった著作もあり、これらの作品は物産学の発展に大いに寄与しました。地域の産物に関する情報を集める「産物志」や採薬記も、多く存在しています。

物産学に関しては、江戸時代の本草学者たちの学風が独特で、田村藍水などの江戸の学者は物産学的かつ実学的なアプローチを取りました。一方、京都（上方）では稲生若水らが名物学的かつ文献学的に物産学を追求しました。この学問の隆盛は、徳川吉宗による「享保の改革」における殖産興業政策とも関係しています。

吉宗は『庶物類纂』の編纂を支援し、各地の産物調査を行ったり、朝鮮人参やサトウキビなどの舶来品の国産化や、救荒食物としてのサツマイモの生産促進を推進しました。さらに、小石川植物園の運営に関与し、採薬使の活動にも力を入れました。こうして、当時の商品の流通と経済の成長が物産学の発展を後押しすることになります。

物産学の名称と歴史的背景

「物産学」や「産物之学」といった名称が用いられるようになったのは江戸後期からですが、物産学に関連する活動自体は古くから行われていました。例えば、『周礼』や地誌の一般的な産物記述、中国の最古の植物誌である『南方草木状』などにもその痕跡が見られます。

幕末から明治初期には、政府の機関である蕃書調所や大学南校に物産に関する部門が置かれ、伊藤圭介や田中芳男などの著名な学者が活動しました。田中芳男の弟子である河原田盛美が琉球処分に際して執筆した『沖縄物産志』は、本草学と物産学の影響を受けた作品の一例です。文部省の博物局は大学南校物産局を前身に持ち、博覧会や博物館事業の振興に寄与しました。

物産学はその実用性と広範な研究対象によって、日本の学術の一端を担い続けています。その影響は現代においても多くの分野に及んでおり、地域の生産物の重要性が再認識されています。

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