阿部正三郎

阿部正三郎：昭和初期の映画界を彩った与太者トリオの一員

阿部正三郎（1912年1月15日 - 1940年代）は、昭和初期の松竹蒲田撮影所を中心に活躍した日本の俳優です。本名を阿部正太郎といい、かつては片岡市女男という芸名で舞台にも立っていました。

生い立ちと舞台

1912年、東京府東京市浅草区阿部川町（現在の東京都台東区元浅草）に生まれた阿部正三郎は、幼少期から演劇の世界に足を踏み入れます。父の阿部三之助が芝居関係の仕事をしていたことがきっかけで、数え年9歳で新派の河合武雄一座に入門し、九州巡業で初舞台を踏みました。その後、伊井蓉峰一座にも参加し、本郷座、歌舞伎座、明治座といった名だたる劇場で新派劇に出演。一時、旧劇（歌舞伎）の四代目澤村源之助一座に所属し、名古屋の御園座に出演していた時期もあったようです。

1923年8月には、浅草公園六区の公園劇場で上演された『己が罪』で伏見信子と共演。しかし、同年9月1日の関東大震災を機に、新劇の流れをくむ新派から旧劇へと転向し、尾上菊右衛門一座に入門。この時、「片岡市女男」と改名し、新潟・佐渡への巡業に参加しました。

松竹蒲田撮影所での活躍

1925年6月、満13歳で松竹蒲田撮影所に入社し、映画俳優「阿部正三郎」としてのキャリアをスタートさせます。初期の出演作品は不明な点が多いですが、1931年12月4日に公開された野村浩将監督のサイレント映画『令嬢と与太者』で主演に近い役を得てから、その人気は一気に加速しました。

同作以降、「与太者シリーズ」としてシリーズ化され、磯野秋雄、三井秀男（のちの三井弘次）との「与太者トリオ」は、当時の観客から絶大な支持を集めました。彼らのコミカルな演技と息の合った掛け合いは、多くの人々を魅了し、映画界に新たな風を吹き込みました。

与太者シリーズでの貢献が認められ、1934年1月、阿部正三郎は磯野秋雄、三井秀男とともに準幹部待遇に昇格。翌1935年1月には、3人揃って準幹部に昇格しました。1936年1月15日の撮影所機能が神奈川県鎌倉郡大船町（現在の鎌倉市大船）に移転するのに伴い、新設された松竹大船撮影所に異動。現代劇だけでなく、京都の松竹下加茂撮影所に出張し、時代劇の剣戟映画にも主演・準主演として出演するなど、幅広い活躍を見せました。

戦火に散った才能

1940年頃、第二次世界大戦のために召集され、正確な没年月日は不明ですが、戦死したと伝えられています。享年28歳頃。同年12月31日に公開された『お絹と番頭』（監督：野村浩将）が、最後の出演作となりました。

阿部正三郎は、その短い生涯の中で数多くの映画に出演し、昭和初期の映画界に確かな足跡を残しました。彼の出演作品は、今もなお多くの映画ファンに愛され続けています。

誤った情報について

インターネット上では、阿部正三郎が国島荘一と同一人物であるという情報が見受けられますが、これは全くの誤りです。阿部正三郎と国島荘一は別人です。

阿部正三郎の功績は、映画史に深く刻まれており、彼の作品は、日本の映画文化の貴重な財産として、後世に語り継がれていくことでしょう。

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