陳イ (四川将軍)

陳宧（ちん い、原名: 寛培、字: 養細、号: 二庵）は、清朝末期から中華民国初期にかけて活躍した軍人・政治家です。彼は袁世凱の下で四川省の軍務を担当し、中国西南部の軍政に深く関与しました。

清末から民国初期の活動

陳宧は科挙の会試に合格し、中書として官僚の道を歩み始めました。1897年、湖北省武備学堂に入学し、卒業後は北京で武衛前軍管帯に任命されました。1903年には、四川総督の錫良から幇統に任命され、新軍の訓練に尽力。常備軍6営、工作兵1営を組織しました。1906年には、四川新軍第33混成協統領兼四川武備学堂会弁に任命され、陸軍小学の会弁も兼任しました。

1907年、雲貴総督に異動した錫良に随行し、雲南新軍協統兼雲南陸軍講武堂堂長を務めました。1909年2月、錫良が東三省総督に異動すると、陳宧もこれに従い、奉天督練公所総参議に任命されました。1910年には、東北新軍第20鎮統制官として奉天に駐留。1911年にはドイツへ軍事留学も経験しています。

辛亥革命後、帰国した陳宧は、錫良の推薦で袁世凱に重用されました。1912年、北京政府参謀部参謀次長に抜擢され、実際には参謀総長代理として参謀部の実権を掌握し、後に陸軍中将の位を授与されました。1914年5月、袁世凱が陸海軍大元帥統率弁事処を設置すると、陳宧もその構成員となり、主に西南部（四川、雲南、貴州）の軍事問題について研究し、意見を具申しました。

四川将軍としての活動

1915年2月、陳宧は毅威将軍兼会弁四川軍務に任命され、3個旅を率いて四川入りしました。同年5月21日には四川巡按使を兼任。6月22日には四川巡按使署理、成武将軍兼行督理四川軍務に特任されました。

四川において、陳宧は袁世凱の権威を確立するため、国民党や共和党、進歩党などの政党や川軍（四川軍）の勢力を排除しました。さらに同年11月以降は、袁世凱の皇帝即位を後押しし、四川省の代表による帝制支持を打ち出しました。しかしその一方で、雲南の蔡鍔とも密かに連絡を取り合っていました。蔡鍔らが護国戦争を発動すると、長江上游総司令曹錕率いる北洋軍本隊とは異なり、積極的な討伐には動きませんでした。

1916年3月22日、袁世凱が皇帝即位を取り消すと、四川省内でも反袁世凱の世論が強まりました。そして5月22日、陳宧はついに四川の独立を宣言しました。袁世凱は、四川軍第1師師長の周駿を後任の四川将軍に任命し、周駿は成都の陳宧を攻撃しました。6月6日に袁世凱が死去し、翌7日に黎元洪が総統を継ぐと、8日には陳宧は独立を取り消しました。24日、黎元洪は蔡鍔を督理四川軍務兼民政長署理とし、陳宧と周駿は揃って北京へ召還されました。これにより、陳宧は軍事・政治の両面で実質的な影響力を失いました。

晩年

国民政府時代になると、陳宧は政界から完全に引退し、北平（北京）で文化人としての生活を送りました。日中戦争（抗日戦争）勃発後の1937年12月、親日の中華民国臨時政府が北平に成立すると、同政府から招聘を受けましたが、これを拒否しました。

1939年1月30日、呉佩孚が内外記者会見を開き、「和平救国宣言」を発表。陳宧も和平救国会連盟の構成員として同宣言に連署したと報道されました。しかし、陳宧が連署に至るまでの経緯や活動の具体性については不明な点が多く、この内外記者会見自体が、張燕卿による宣伝であった可能性も指摘されています。

同年10月24日、北平で死去。享年70歳でした。

もう一度検索