曹錕

曹錕：激動の時代を駆け抜けた軍閥のリーダー

曹錕（そう こん、1862年12月12日 - 1938年5月17日）は、清末から民初の中国において、軍人、政治家として活躍しました。北洋軍閥の有力な一派である直隷派の指導者の一人であり、中華民国第5代大総統を務めました。字は仲珊。

袁世凱に見出された才能

天津の貧しい家庭に生まれた曹錕は、若い頃は布を売る生活を送っていました。しかし、20歳で淮軍に入隊し、1890年に天津武備学堂（北洋武備学堂）を卒業。1894年の日清戦争に従軍し、鴨緑江方面で戦いました。この戦争での経験が、彼の人生を大きく変えることになります。

戦後、曹錕は袁世凱の下で天津の新軍訓練に従事し、その才能を開花させていきます。1902年に袁世凱が直隷総督に昇進すると、曹錕は右翼歩兵第11営管帯に任ぜられ、翌年には北洋陸軍第1鎮第1協統領に抜擢されるなど、着実に頭角を現していきます。1906年には第1混成協統領、翌1907年には第3鎮統制に起用され、軍人としての地位を確立しました。

1911年の辛亥革命勃発時には、第3鎮を率いて直隷省の娘子関に急行し、革命派を撃破するなどの功績をあげています。

段祺瑞との協調と対立

1914年、曹錕は長江上遊警備司令に任命され、湖南省の岳州に移駐。1915年に袁世凱が皇帝即位を目論むと、いち早く支持を表明し、「虎威将軍」に任命されました。しかし、袁世凱の皇帝即位は世論の反発を招き、護国戦争が勃発。曹錕も鎮圧に動員されましたが、袁世凱は失脚し、病死してしまいます。

袁世凱の死後、黎元洪が大総統となると、曹錕は直隷督軍に任命され、保定に駐留。黎元洪と国務総理段祺瑞との政争（府院の争い）においては、中立を維持しました。しかし、張勲復辟事件では段祺瑞を支持し、張勲討伐に貢献しています。

その後、段祺瑞が再び国務総理に返り咲くと、南方政府への対応をめぐり、段祺瑞の安徽派と馮国璋の直隷派との対立が激化。曹錕は当初段祺瑞に接近していましたが、後に馮国璋支持に転じました。しかし、徐樹錚の調略により、再び段祺瑞支持に転じるなど、その立場は安定しませんでした。

1918年、曹錕は南征軍第1路総司令兼両湖宣撫使に任命され、南方政府軍を討伐。呉佩孚らの活躍で優勢に戦いを進めますが、段祺瑞が軍功をあげていない安徽派の張を湖南督軍に任命したため、段祺瑞への不満を募らせていきました。

直隷派の領袖、そして大総統へ

1919年の五四運動を機に、曹錕部下の呉佩孚が運動支持の姿勢を示すと、曹錕は段祺瑞ら安徽派への対決姿勢を強めていきます。馮国璋の死後、曹錕は直隷派のトップとなり、張作霖ら奉天派との連携を強化。1920年の安直戦争で安徽派を破り、北京政府の実権を掌握しました。その後、直魯豫巡閲使に就任し、その勢力を拡大していきます。

しかし、呉佩孚らは張作霖の台頭に反感を抱き、また直隷派と奉天派の背後にはそれぞれ英米、日本がついていたこともあり、両派の関係は次第に悪化。1922年、第一次奉直戦争が勃発し、直隷派が勝利しました。この勝利により、曹錕は政治基盤を強化し、大総統徐世昌を辞任に追い込み、黎元洪を後任として擁立。直隷派の全盛期を築き上げました。

そしてついに、曹錕自身が大総統の座を狙うようになります。

賄選総統、そして失脚

大総統就任のため、曹錕はなりふり構わぬ行動に出ます。アメリカの支持を得るために工作を行い、高凌霨や呉景濂らを通して議員の買収と脅迫を大々的に行いました。その結果、1923年10月5日の大総統選挙で当選を果たし、大総統に就任。しかし、その腐敗した過程から、「賄選総統」と揶揄され、世論は完全に直隷派から離れていきました。

1924年、第2次奉直戦争が勃発。曹錕は呉佩孚を呼び戻し奉天派を迎え撃たせますが、第3軍総司令馮玉祥が突然兵変を起こし、曹錕を逮捕、北京を制圧してしまいます（北京政変）。これにより、曹錕は失脚し、大総統の座から引きずり下ろされました。

失意の晩年

大総統辞任後、曹錕は開封へ逃れ呉佩孚の庇護を受けましたが、再び政治の表舞台に立つことはありませんでした。国民革命軍の北伐後は天津のイギリス租界に逃れ、そこで静かに暮らしました。日本側から傀儡政権への参加を求められたこともありましたが、応じることはありませんでした。

1938年5月17日、曹錕は天津にて肺炎のため病没。75歳でした。

曹錕は、激動の時代を駆け抜けた軍人であり政治家でした。その生涯は、権力闘争と時代の波に翻弄されたものでしたが、彼が中国近代史に与えた影響は決して小さくありません。

もう一度検索