陳循

陳循（ちん じゅん、1385年 - 1462年）は、明代の官僚であり、その生涯は官僚としての栄光と挫折、そして時代の変遷に翻弄されたものでした。

若き日の飛躍と官僚としての台頭

陳循は字を徳遵、号を芳洲と称し、吉安府泰和県を本貫としました。1415年（永楽13年）、科挙において首席で進士に及第し、状元という最高の栄誉を得て官僚としての道を歩み始めます。翰林院修撰に任じられると、朝廷の典故を学び、その学識を深めました。永楽帝が北京に遷都すると、陳循は南京の秘閣の書物を北京に運ぶよう命じられ、そのまま北京に留まり、帝の側近として仕えることになります。

1425年（洪熙元年）、陳循は侍講に昇進し、学問を通じて皇帝に助言を行う役目を担うようになりました。宣徳帝の時代には、南宮に宿直して皇帝の相談役を務め、玉河橋の西に邸を与えられるなど、その信任は厚く、皇帝の巡幸には常に随行しました。その後、侍講学士に進み、1436年（正統元年）には経筵官を兼任するなど、着実にその地位を高めていきました。1443年（正統8年）には翰林院学士に進み、名実ともに朝廷の中枢で活躍する官僚の一人となります。

内閣入りと国政への関与

1444年（正統9年）、陳循は文淵閣に入り、国政の機密に参与するようになります。当時の朝廷では、三楊（楊栄、楊士奇、楊溥）が政務を主導していましたが、楊栄と楊士奇が亡くなり、楊溥も老齢となったため、陳循は曹鼐、馬愉と共に内閣を構成し、朝政の議論に参加するようになります。翌年には戸部右侍郎に進み、学士を兼任しました。1449年（正統14年）、土木の変が起こると、人心が動揺する中で、陳循は数々の提言を行い、その多くが景泰帝に受け入れられました。戸部尚書に進んだ後も、エセン・ハーンが北京を攻撃しようとした際には、各辺境から精鋭の騎兵を北京防衛に派遣するよう提案し、敵に通じている疑いのある民族を辺境に帰らせるよう勅命を求めるなど、国難に際して指導力を発揮しました。

権力闘争と失脚、そして復帰

しかし、陳循のキャリアは常に順風満帆だったわけではありません。1451年（景泰2年）、妻の埋葬をめぐり郷里の人々と墓地を争った際、巡按御史に不実を訴えられ、給事中からも批判を受けました。景泰帝は給事中の意見を容れましたが、陳循の罪を問うことはありませんでした。同年12月には、少保・兼文淵閣大学士に進み、景泰帝が皇太子を甥から自分の子に変更しようとした際には、閣臣たちの反対を恐れて、陳循らに金品を与え、皇太子交代の議論を促しました。陳循らは皇帝の意向に逆らわず、兼太子太傅に任命されました。その後も皇帝から再び金品を賜り、1456年（景泰7年）には華蓋殿大学士に進みましたが、子の不正に関わる問題で弾劾を受けました。しかし、皇帝は再び罪を問うことはありませんでした。

1457年（天順元年）、英宗が復位し、于謙と王文が亡くなると、陳循はかつての行動を咎められ、杖罰100を受けた上で、一兵士として鉄嶺衛に流されてしまいます。しかし、1461年（天順5年）には英宗の詔により赦免され、民として生きることを許されました。翌1462年（天順6年）、陳循は波乱に満ちた生涯を終えました。

陳循は、その学識と才能で朝廷の中枢で活躍しましたが、権力闘争や時代の変化に翻弄され、晩年は不遇をかこちました。著書として『芳洲集』16巻を残しています。

陳循の生涯は、明代の官僚制度や政治の複雑さ、そして個人の運命が時代の流れに左右されることを示す、興味深い事例と言えるでしょう。

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