杜弢

杜弢（と とう）

杜弢（生年不詳 - 315年）は、中国西晋末期に活動した流民勢力の首領であり、字は景文と名乗りました。彼の祖父は蜀郡で名士として知られた符節令の杜植、父は略陽護軍の杜眕であり、杜弢自身も蜀郡成都の出身です。彼は湘州・荊州・豫州の三州にまたがる大規模な反乱を主導し、西晋滅亡の遠因を作りました。『資治通鑑』には杜苾（とひつ）という名で記録されています。

生涯

若き頃から杜弢は才学に優れ、その名を知られていました。益州刺史の羅尚（らしょう）によって秀才に推挙され、後に別駕（刺史の補佐官）に任じられます。

永康2年（301年）3月、益州には秦州や雍州からの流民が多数避難していましたが、羅尚は彼らを追い返そうとしており、流民たちとの間で緊張が高まっていました。杜弢は羅尚に対し、流民の帰郷を一年間待つよう進言しますが、羅尚はこれを聞き入れませんでした。失望した杜弢は、秀才に推挙された際の推薦状を返上し、職を辞して故郷へと帰りました。その後、益州で李特（りとく）の乱が起こると、杜弢は南平郡へ避難しました。南平郡太守の応詹（おうしん）は、杜弢の才能を高く評価し、手厚く待遇しました。後に杜弢は醴陵県令に任じられます。

永嘉5年（311年）、巴蜀（はしょく）の動乱を避けるため、汝班（じょはん）や蹇碩（けんせき）らは数万の家 लोगोंを率いて、荊州・湘州一帯に避難してきました。しかし、これにより以前からその地に住んでいた人々は生活を脅かされ、大きな不満を抱くようになります。流民の李驤（りじょう）は県令を殺害し、数百人を集めて楽郷に立て籠もりました。杜弢は応詹と共に討伐に赴き、李驤を打ち破ります。

同じく流民であった杜疇（とちゅう）と蹇撫（けんぶ）らも湘州に侵攻しました。参軍の馮素（ふうそ）は汝班と仲が悪く、湘州刺史の荀眺（じゅんちょう）に対し、「流民は皆反乱を企んでいます」という偽りの報告を行いました。荀眺はこれを信じ込み、流民を皆殺しにしようとしました。殺されることを恐れた汝班らは兵を集め、杜疇に呼応します。当時、杜弢は湘中にいましたが、流民たちは彼を首領として推戴しました。杜弢は自ら梁益二州牧・平難将軍・湘州刺史を自称し、軍を率いて郡県を次々と攻略しました。荀眺は城を捨てて広州へと逃亡し、広州刺史の郭訥（かく とつ）は、始興郡太守の厳佐（げんさ）に兵を与え、杜弢を攻撃させましたが、杜弢は官軍を打ち破りました。荊州刺史の王澄（おうちょう）は王機（おうき）を討伐に派遣しましたが、杜弢は巴陵においてこれを破りました。杜弢は兵に略奪を許可し、その後、偽って征南将軍の山簡（さんかん）に降伏し、広漢郡太守に任じられました。

荀眺が逃走した後、湘州の人々は安成郡太守の郭察（かくさつ）を推薦し、州事を委ねました。郭察は兵を率いて杜弢を討伐しようとしましたが、返り討ちに遭い殺害されました。

建興元年（313年）8月、杜弢は南に進撃して零陵を破り、東に向かって武昌へ侵攻しました。そして城村を焼き払い、長沙郡太守の崔敷（さいふ）・宜都郡太守の杜鑒（とかん）・邵陵郡太守の鄭融（ていゆう）らを殺害しました。

建興3年（315年）、琅邪王司馬睿（後の元帝）は征南将軍の王敦（おうとん）と荊州刺史の陶侃（とうかん）らに命じて、杜弢を討伐させました。前後数十回の戦いの末、杜弢の将兵は多くが討ち死にしました。杜弢は降伏を求めましたが、司馬睿はこれを許しませんでした。そこで杜弢は、かつての上司であった応詹に書状を送り、窮状を訴えました。応詹は杜弢の手紙を読むと深く悲しみ、その書を司馬睿に送り、「杜弢は窮鼠となっており、降伏を受け入れるべきです」と進言しました。司馬睿は元南海郡太守の王運（おううん）を派遣し、杜弢の降伏を受諾するよう命じ、大赦を下す詔を発しました。すべての反乱者を赦免し、杜弢を巴東郡監軍に任じました。

しかし、杜弢の降伏受諾後も、功を焦る東晋軍は攻撃を止めませんでした。杜弢は約束が違うことに憤り、王運を殺害して再び決起します。

2月、杜弢は配下の杜弘（とこう）・張彦（ちょうげん）を海昏へ派遣し、臨川郡内史の謝摛（しゃち）を攻撃して討ち取ると、引き続き豫章を攻撃しました。

3月、豫章郡内史の周訪（しゅうほう）は杜弘らを撃破し、杜弘は臨賀へ逃走、張彦は斬り殺されました。

8月、杜弢は配下の王真（おうまこと）に精兵3000を与え、奇兵を組織しました。奇兵は江南に出て武陵に向かい、官軍の補給路を断ち切ろうとしました。陶侃は、伏波将軍の鄭攀（ていはん）を出撃させ、王真の奇兵を打ち破ります。敗れた王真は湘城に逃走し、陶侃らの諸軍が一斉に進軍すると、王真は陶侃に降伏し、杜弢の兵士は壊滅しました。杜弢は逃走を図りましたが、その途上で亡くなりました。

参考文献

『晋書』巻100 列伝第70
『資治通鑑』巻84-巻89

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