陶安

陶安（とう あん）は、生没年不詳ながら、元末から明初にかけて活躍した官僚であり、儒学者でもありました。字は主敬と称し、太平州当塗県を本貫とします。若くして聡明であり、経書や史書を広く渉猟し、中でも『易経』に深い造詣を持っていました。

元の至正初年には、江浙郷試に合格し、明道書院の山長に任じられました。しかし、元末の混乱を避けるため、一時的に隠遁生活を送りました。1355年（至正15年）、朱元璋が太平を奪取すると、陶安は老儒者の李習と共に地元の有力者たちを率いて出迎えました。朱元璋と語り合った際、金陵の攻略を勧め、その才能を認められて幕府に迎えられ、左司員外郎に任じられました。

翌1356年（至正16年）、陶安は朱元璋に従って集慶に入り、郎中に昇進しました。朱元璋が劉基、宋濂、章溢、葉琛らを招聘した際、陶安は「私は謀略においては劉基に及ばず、学問では宋濂に及ばず、民を治める才能では章溢や葉琛に及ばない」と自己分析しています。この言葉は、彼の謙虚な人柄と、他者の能力を正当に評価する冷静さを示しています。

朱元璋が黄州を占領すると、陶安は黄州知州に任命され、租税を軽減し、徭役を減免するなど、民衆の負担軽減に努めました。しかし、ある事件に連座して桐城知県に左遷され、その後、饒州知州に転任しました。陳友定が州城を攻撃した際には、陶安は饒州の官吏や民衆を説得して籠城し、堅く守りました。援軍が到着すると、陳友定は敗走しました。諸将が陳友定に従った民衆を皆殺しにしようとした時、陶安はそれを許さず、民衆の命を救いました。この功績により、朱元璋は陶安を褒め称える詩を贈り、饒州の民衆は陶安を祀る生祠を建てて感謝の意を表しました。

1367年、明朝が設立され、翰林院が初めて設置されると、陶安は初代の翰林学士に任命されました。朱元璋が儒学者たちを集めて礼について議論させた際には、陶安が総裁官を務めました。その後、李善長、劉基、周禎、滕毅、銭用壬らと共に律令の策定にも携わりました。

1368年（洪武元年）、陶安は知制誥に任命され、修国史を兼務しました。洪武帝（朱元璋）が東閣で群臣と対話した際、陶安は章溢らと共に、元の興亡の原因は驕りと奢侈にあると述べました。また、学術を論じる中で、邪説は正道を損なうと説きました。しかし、御史が陶安の隠された罪を告発した際、洪武帝が「安寧がここにあるのに、どうして知に従えるだろうか」と詰問すると、陶安は「それは道で聞くのが良いでしょう」と答えました。この発言が洪武帝の怒りを買い、陶安は降格されてしまいました。

その後、江西行省参政に任命され、固辞しましたが洪武帝に許されず着任し、その地で治績を挙げました。しかし、同年9月に病に倒れ、在官のままこの世を去りました。その功績を称えられ、死後、姑孰郡公を追封されました。

陶安の子である陶晟は、洪武年間に浙江按察使となり、収賄の罪で処刑されました。また、その兄である陶昱も連座して死罪となりました。さらに、彼らの家族40人余りが軍に徴発され、後に全員が死亡しました。兵部が再び陶晟の家から兵員を補充しようとした際、陶安の後妻である陳氏が宮殿に訴え出ました。洪武帝は、陶安の功績を鑑み、陶家を兵籍から除外しました。これは、陶安の生前の功績が、没後も家族を救った稀有な例と言えるでしょう。

陶安は、その聡明さと学識、行政手腕、そして民を思う心によって、元末から明初にかけての激動期を生き抜いた人物でした。彼の生涯は、為政者としての能力だけでなく、人間としての誠実さと謙虚さを示すものであり、後世に多くの教訓を残しています。

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