青木一貫

青木一貫：麻田藩を支えた異色の藩主

青木一貫（あおき かずつら）は、江戸時代中期に摂津国麻田藩の第9代藩主を務めた人物です。伊予国宇和島藩主・伊達村年の三男として生まれ、数奇な運命を経て麻田藩の婿養子となり、藩主の座を継ぎました。その生涯は、当時の大名家の家督相続事情や人間関係を色濃く反映しています。

生涯

享保19年（1734年）、伊達村年の三男として生を受けた一貫は、幼名を村銘、通称を伊織と名乗っていました。兄が宇和島藩主を継いだため、部屋住みとして過ごします。

明和6年（1769年）12月、青木一新の婿養子となるべく幕府に願いを提出し、翌年2月に許可されます。同年3月には10代将軍・徳川家治に御目見えを果たし、7月には一新の隠居により家督を相続し麻田藩主となりました。明和8年（1771年）には従五位下・甲斐守に叙任されています。

安永7年（1778年）には大番頭に就任しますが、天明4年（1784年）に退任。天明6年（1786年）に53歳でこの世を去りました。跡は正室との間に生まれた四男の一貞が継ぎました。

特筆すべきは、次男の設楽貞喬の孫にあたる岩瀬忠震です。彼は幕末に日米修好通商条約の締結に尽力するなど、開国交渉で重要な役割を果たした旗本でした。

養子入りまでの経緯

青木一貫が青木家の養子となるまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。青木一新には5人の男子がいましたが、いずれも早世してしまいます。自身の家督相続の経緯もあり、一新は跡継ぎとして適切な男子が近親者にいない状況でした。

そこで婿養子を迎えることになり、当初は弘前藩津軽家と交渉するも不調に終わります。その後、宇和島伊達家との間で交渉が始まりました。青木家は当初、伊達村候の庶子のうち、10歳前後の男子を望んでいました。幼いほど、一新の次女の婿として年齢的に釣り合いが取れ、また幕府への出仕にかかる費用も当面は避けられると考えたためです。しかし、持参金の問題から交渉は難航しました。

そこで伊達家から提案されたのが、村候の弟である伊織村銘でした。伊織にも過去に何度か養子の話がありましたがまとまらず、部屋住みとして宇和島で暮らしていました。過去には彦根藩主・井伊直定との縁組の話もありましたが、井伊家の血筋を重んじる幕府の意向により破談となっています。

当時35歳と高齢であった伊織は、一新との年齢が近く、娘とも年齢が離れすぎていることから、青木家側は当初難色を示しました。しかし、一新の娘には、部屋住み時代にもうけ、家督相続にあたり家臣の養女にしていた庶出の長女のお薗がいました。そこで青木家側は、お薗を藩主家に戻した上で伊織をその婿養子とするという新たな提案を行いました。伊達家側も持参金の上積みなどに応じたため、交渉はまとまり、伊織は青木家に入り、諱を一載、のちに一貫と改めました。

一貫の「娘」のうち、渡辺春綱の正室となった女性は、養子話の際に最初に持ち出された一新の次女を一貫が養女にしたのだという説もあります。この複雑な人間関係は、当時の大名家の事情を物語っています。

青木一貫は、数奇な運命に翻弄されながらも麻田藩主としての責務を果たし、藩政に貢献しました。彼の生涯は、江戸時代の大名家の家督相続や人間関係を考える上で、貴重な事例と言えるでしょう。

系譜

父：伊達村年（1705年 - 1735年）
母：富子 - 徳子、伊達吉村の三女
養父：青木一新（1728年 - 1781年）
正室：お薗 - 青木一新長女、青木忠右衛門の養女となるも復籍
子女：6男6女
四男：青木一貞（1776年 - 1831年）
男子：佐野健行 - 佐野義行の養子
男子：設楽貞喬 - 設楽貞猶の養子
男子：米津政佑 - 米津政従の養子
男子：青木一寧
女子：渡辺春綱正室 - 養女とも
女子：斉藤利恵正室

参考文献

* 大森映子『お家相続 大名家の苦闘』（角川選書、2004年） p.142-164

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