青空 (雑誌)

同人雑誌『青空』：若き才能たちの足跡

『青空』は、1925年1月に梶井基次郎、中谷孝雄、外村茂ら東京帝国大学の学生たちが創刊した同人雑誌です。その誌名は、彼らが見た快晴の青空と、武者小路実篤の詩の一節「さわぐものはさわげ、俺は青空」に由来します。

時代背景

大正時代、民衆芸術運動や大正教養主義の影響を受け、文学活動を始める若者が増えました。こうした背景の中、『青空』以前にも『現代文學』など、若者による同人雑誌が登場。旧文壇的な商業主義とは異なる「リトル・マガジン」を目指す気運が高まっていました。

1924年には、『新思潮』『文藝戦線』『文藝時代』など、文壇に近い新人作家たちの間で新たな文学的動きが活発化。『青空』創刊の翌1925年以降も、『辻馬車』『主潮』『不同調』など、数多くの同人雑誌が次々と誕生しました。

創刊の経緯

梶井基次郎、中谷孝雄、外村茂の3人は、東京帝国大学で第七次『新思潮』発刊の計画を知り、刺激を受け、自分たちの同人雑誌を創刊することを決意します。

彼らは、同人に小林馨、忽那吉之助、稲森宗太郎を加えました。当初、誌名を「鴉」にしようと考えていましたが、梶井は満足していませんでした。

1924年5月初旬、同人たちは食料品店の2階にある喫茶店で第1回同人会を開き、秋に創刊することを決定。具体的な計画を立て、外村茂の家を連絡場所としました。

10月初め、同人たちは雑誌の正式名称を改めて相談。梶井は「薊」を主張しましたが、稲森の助言で廃案となりました。中谷の妻の「さわぐものはさわげ、俺は青空」という武者小路実篤の詩の一節から、中谷が「青空はいいな」と叫び、梶井が賛同。「青空」に決定しました。

創刊号の発刊

10月末、同人たちは原稿を持ち寄り、巻頭には梶井基次郎の「檸檬」を掲載することが決まりました。印刷代が高額だったため、稲森宗太郎の友人の父親の伝手で、刑務所の作業部で印刷してもらうことになりました。

11月末、外村茂と忽那吉之助が岐阜刑務所に原稿を渡しましたが、事務連絡に手間取り、創刊号発行は新年に延期。12月27日、外村、梶井、中谷孝雄の3人は岐阜刑務所で『青空』300部を受け取りました。

1925年1月1日、『青空』創刊号が30銭で販売されました。掲載作は、「檸檬」（梶井基次郎）、「信」（忽那吉之助）、「暑熱」（小林馨）、「折にふれて」（蠑螈子）、「母の子等」（外村茂）、「初歩」（中谷孝雄）でした。

装幀は忽那吉之助が手がけ、巻末には萬藤果物店、白十字堂、キネマ旬報社の広告が掲載。梶井は文学界に認められたい思いはありながらも、無名の同人雑誌は書店で買って読む義務があると主張し、文壇作家には寄贈しませんでした。

しかし、『青空』創刊号はほとんど売れず、同人合評会では中谷孝雄が梶井基次郎の「檸檬」を批判。数日後、稲森は同人脱退を申し出ました。

第2号以降

同人5名となった『青空』第2号には、梶井基次郎の「城のある町にて」が掲載されました。第3号からは、印刷所を秀巧舎に変更。第4号からは、浅沼喜実と淀野隆三が同人参加しました。

梶井は、淀野から三好達治を紹介され、同人に勧誘。淀野は無名状態の『青空』をなんとかするため、文壇作家へ贈呈することを提案しました。梶井、中谷、外村の3人は、武者小路実篤にも雑誌を献呈しました。

また、梶井は小山田嘉一の紹介で北川冬彦と再会し、同人に誘いましたが、まだ参加しませんでした。11月発行の第9号からは、随筆欄「真素木」を設けました。12月には、『青空』文芸講演会を開くなど広報活動をしましたが、聴衆はわずかでした。

1926年4月には、梶井基次郎が島崎藤村宅に雑誌を献呈。しかし、梶井の結核が悪化し、同人たちも生活に追われ、雑誌経営は困難に。1927年6月の第28号をもって終刊となりました。

終刊後と文学史的評価

『青空』終刊後、同人の阿部知二と古澤安二郎らが新しい同時雑誌『糧道時代』発刊の計画をしましたが、実現せず。その後、同人誌『文藝都市』に発展し、梶井基次郎も参加しました。

同人誌『青空』は、当時あまり文壇に注目されることのなかったアマチュア雑誌でしたが、梶井基次郎、外村繁、中谷孝雄が結成していた同人雑誌として、近代文学史的に意義のある雑誌です。また、参加同人メンバーの多様性からも『白樺』や『文藝時代』、戦後の『近代文学』と同様の特色があります。

梶井基次郎の作品に着目した田中西二郎が、梶井に執筆依頼したことが、梶井の文壇への足掛かりとなりました。

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