頸城鉄道線

頸城鉄道線とは

頸城鉄道線は、現在の新潟県上越市にあたる直江津市の新黒井駅と、旧浦川原村の浦川原駅間を結んでいた762mm軌間の軽便鉄道路線です。頸城鉄道自動車（現在の頸城自動車）が運営していました。地元の人々や鉄道ファンからは、社紋（Ⓚ）にちなんで「まるけい」という愛称で親しまれていましたが、1971年に惜しまれつつ全線が廃止されました。

路線の特徴と役割

この路線が位置する地域は、日本でも有数の豪雪地帯として知られています。厳しい冬の間、鉄道の運行は困難を極め、開業から23年間で運休した日は合計125日にのぼり、まる一日全く列車が動かなかった年が6回もありました。また、積雪のため間引き運転を行った日も同じ期間で273日ありました。しかし、同時期の路線バスは、浦川原から高田間の運行で年間100日以上運休するなど、鉄道以上に深刻な状況でした。そのため、道路の除雪体制や整備が十分に進む1971年まで、頸城鉄道は地域の重要な交通手段として存続し続けました。

路線概要

営業キロ：15.0km
軌間：762mm
駅数：10駅（起終点を含む）
複線区間：なし（全線単線）
電化区間：なし（全線非電化）
閉塞方式：票券閉塞式

1967年9月時点では、新黒井と浦川原を結ぶ直通列車が1日に7往復運行されていました。この区間の所要時間は約44分でした。その他に区間運転の列車も設定されていました。

歴史の歩み

路線の始まりは1912年（大正元年）にさかのぼります。上越軽便鉄道が直江津から下保倉間の免許を取得し、翌1913年（大正2年）には頸城鉄道株式会社が設立されました。1914年（大正3年）10月1日に新黒井駅から下保倉駅までの区間が開業し、1916年（大正5年）5月5日に浦川原まで延伸されて全線が開通しました。開業当初は蒸気機関車が活躍しましたが、1926年（大正15年）からはガソリンカーも導入され、輸送力の増強が図られました。

しかし、1920年代後半から並行する国鉄線の開業（十日町線、上越線）やバス事業の開始により、鉄道の乗客数は減少傾向をたどります。特に旅客営業は1924年頃がピークでした。1943年（昭和18年）には貨物輸送量がピークを迎えましたが、全体としては経営が悪化し、1946年（昭和21年）には鉄道部門が初めて赤字を計上しました。この赤字は廃止まで続くことになります。

戦時体制下の1944年（昭和19年）には交通統合により、社名が頸城鉄道自動車に変更されました。モータリゼーションの進行に伴い、バス事業へのシフトが進み、鉄道は縮小へと向かいます。1968年（昭和43年）には新黒井-百間町間と飯室-浦川原間の大部分が先行廃止され、残された百間町-飯室間も1971年（昭和46年）5月2日に廃止となり、頸城鉄道線はその歴史に幕を閉じました。なお、1968年の部分廃止で国鉄線との接続がなくなった後は、全国の時刻表からその姿を消し、「幻の鉄道」とも呼ばれました。

駅と接続

頸城鉄道線には、新黒井、北四ツ屋、百間町、鵜之木、明治村、花ヶ崎、大池、飯室、下保倉、浦川原の計10の駅がありました。百間町駅はかつて本社が置かれ（後に直江津へ移転）、列車交換や車庫が併設されるなど、路線の中心的な役割を担っていました。明治村駅と飯室駅でも列車の交換が可能でした。終点の浦川原駅には転車台や留置線が設けられていました。

起点の新黒井駅では、日本国有鉄道（現在のJR東日本）信越本線の黒井駅と構内踏切を介して接続しており、乗り換えが可能でした。

個性豊かな車両たち

頸城鉄道線では、軽便鉄道らしい小型で個性豊かな車両たちが活躍しました。特に有名なのは、製造元にちなんで「コッペル」と呼ばれた2号蒸気機関車です。この機関車は1966年に引退した後、一時西武鉄道山口線で働き、現在は頸城区の百間町で大切に保存されています。

内燃機関車としては、既存の蒸気機関車を改造したものや、十勝鉄道から譲り受けた大型機（冬季除雪に活躍）などがありました。

気動車も多数在籍しました。最初に導入されたのは単端式と呼ばれる片側にしか運転台がないタイプでした。これらは小型でしたが、後に様々なエンジンの換装や車体改造を受け、比較的長く使用されました。

輸送力増強のため、客車を改造したボギー式気動車も自社工場で製造されました。特にホジ3号機は、当初は客車「ホトク1」からの改造で独特な構造を持っていましたが、後に大幅なディーゼル化改造を受け、晩年まで路線の主力車両として活躍しました。

客車は開業時からボギー車や、魚沼鉄道から譲り受けた小型の2軸車などが使用されました。一部は荷物車に改造されたり、オープンデッキを持つ個性的な姿の車両もありました。

保存と活用

頸城鉄道線の廃止後、多くの車両たちが各地で保存されています。特に、かつて百間町車庫があった場所には「くびき野レールパーク」が整備され、動態保存されているホジ3号機やDC92号機をはじめ、蒸気機関車2号機、客車ハ6、荷物車ニフ1、貨車などが収蔵・展示されています。定期的な公開日には、ホジ3やハ6に乗って敷地内を往復する体験乗車イベントも行われ、多くの鉄道ファンや地域の人々が集まります。この活動は、鉄道愛好家団体「くびきのお宝を残す会」をはじめ、多くの人々の協力によって支えられています。

また、ラッセル式除雪車のラキ1号機は千葉県の「羅須地人鉄道協会まきば線」で、客車のハ5号機（魚沼鉄道ハ2として）は新潟県立自然科学館で保存されています。

廃止後の跡地

頸城鉄道線の廃線跡の一部は、1997年に開業した北越急行ほくほく線の建設用地として活用されました（うらがわら駅周辺など）。また、現在も頸城自動車によって浦川原方面と直江津市街を結ぶ路線バスが運行されており、一部区間は旧線路敷に沿って進んでいます。

「まるけい」は姿を消しましたが、その歴史は多くの保存車両や鉄道遺構として、今も上越の地に息づいています。

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