風の松原

風の松原

風の松原は、秋田県能代市の海岸線に沿って東西1km、南北14kmにわたって広がる、約760ヘクタールの広大なクロマツ林です。この松林は、約700万本ものクロマツによって形成され、東京ドーム163個分にも相当する日本最大級の規模を誇り、日本五大松原の一つにも数えられています。

多様な機能を持つ保安林

風の松原は、保安林として指定されており、砂防林、防砂林、防潮林、防風林など、複合的な機能を果たしています。海岸沿いの砂の移動を防ぎ、強風や高潮から市街地を守る重要な役割を担っています。また、保健保安林としての側面も持ち、林内にはサイクリングコースやジョギングコースが整備され、市民の憩いの場として活用されています。

歴史

能代の海岸は、古くから砂による被害に悩まされてきました。家屋や農地の埋没、米代川の閉塞などにより、地形の激変や集落の移転も余儀なくされてきた歴史があります。江戸時代に入ると、砂留めの必要性が高まり、1711年（正徳元年）には、廻船問屋の越後屋太郎右衛門と庄屋の村井久右エ門が私財を投じて植林を開始しました。その後も、久保田藩の砂留吟味役である栗田定之丞や能代木山方の賀藤景林親子などが植林を推進し、地域住民も協力して松の植栽を続けました。また、風に強いハマナスやアキグミなどを最初に植えて砂地を固めたり、防風柵を立てて幼木を守る技術も蓄積されていきました。

松原は、燃料目的の伐採や食料となる草の採取、太平洋戦争中の山火事や松根油の採取などにより、衰退と発展を繰り返してきました。しかし、戦後の植栽や保安林指定を受け、安定した状態を維持しています。

名称の由来と保全運動

長年「砂防林」と呼ばれ、地域住民の共有林として利用されてきましたが、昭和後期になると能代港地区の整備に伴う伐採計画に対し、市民有志による「砂防林を愛する会」が結成され、1万1千人以上の署名が集まる反対運動が起こりました。また、日本海中部地震の津波の際には、松原によって保持された砂丘が市街地を守ったと評価されたこともあり、松原の保全と親愛の機運が高まりました。1987年には、市民に愛着を持ってもらうことを目的に、名称が公募され、「風の松原」と決定しました。

現在の風の松原

現在、風の松原の中心部には、1周2kmのトリムランニングコースや健康づくりの道、散策路が整備されているほか、いこいの広場、水辺の広場、アスレチックなどが設けられ、市民の憩いの場として親しまれています。学校行事の駅伝大会や散策イベントなど、様々なレクリエーションにも利用されています。バードウォッチングやきのこ狩りも楽しむことができます。

風の松原は、「日本の白砂青松100選」をはじめとする6つの100選にも選ばれており、その美しさや価値は広く認められています。

生物多様性

風の松原は、クロマツを主体とする砂防林ですが、その規模と密度から多様な生態系を形成しています。キツネ、タヌキ、ウサギ、リスなどの哺乳類や、アカゲラ、オオルリ、アオジ、オオタカなど数十種類の鳥類が生息しています。また、カラスアゲハ、アオハダトンボ、アオスジアゲハなどの昆虫、カスミザクラ、コマユミなどの植物も確認されています。

マツクイムシによる被害と対策

近年、マツクイムシの被害が深刻化しており、1999年には風の松原でも被害木が発見されました。その後も被害は拡大しましたが、薬剤散布や樹幹注入などの対策により、被害はピーク時の4分の1に減少しました。現在も防除活動が継続されています。

関連施設とイベント

風の松原内には、大森稲荷神社があります。また、隣接する能代公園には、風の松原の植林に貢献した賀藤景林を祀る景林神社があり、能代市豊祥岱には、栗田定之丞を祀る栗田神社があります。

風の松原を守るための市民ボランティア大会も開催されています。

関連作品

風の松原は、司馬遼太郎の「街道をゆく29　秋田県散歩/飛騨紀行」にも登場しています。

まとめ

風の松原は、豊かな自然と歴史を持つ貴重な存在であり、市民の生活と心を支える重要な場所です。これからもその価値を守り、次世代に引き継いでいく必要があります。

年表

江戸時代初頭：冬の季節風による飛砂で、農地などに大きな被害が発生。
1670年：野代（能代）の医師、長尾祐達が防砂を提唱。
1711年：廻船問屋の越後屋太郎右エ門、庄屋の村井久右エ門の自費によりクロマツの植栽が始まる。
1797年：郡方砂留吟味役、栗田定之丞が久保田藩内のクロマツの植栽を開始。
1833年：能代木山方、賀藤景林が植えたクロマツが76万本となる。
1858年：賀藤景林の子、景琴が植えたクロマツが30万本となる。
1912年：ハマナスの採取により松原が衰退。
1921年：後谷地で国営造林事業開始。林区署が植林を計画、着手する。
1944年：松根油の採取が行われる。
1971年：市民による伐採反対運動が起きる。
1983年：日本海中部地震が発生し、臨海部が津波を受ける。
1987年：市の公募により愛称が「風の松原」に決定する。
1989年：日本三大松原に風の松原を加えた日本五大松原サミットが開催される。

参照情報

米代西部森林管理署：東北森林管理局 - 風の松原（後谷地国有林、大開浜国有林）
風に学んで（能代海岸防災林の造成の記録）
緑の遺産　風の松原 | あきた森づくり活動サポートセンター

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